各ブロックの首都機能をBRICS諸国が担うようになる。
「ブラジル」「ロシア」「インド」「中国」「南アフリカ共和国」
BRICS諸国が所属する全ての地域に、地域統合の動きが確認できます。
・ブラジルの「ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体」
・ロシアの「ユーラシア経済連合」
・インドの「南アジア地域協力連合」
・中国の「東アジア地域包括的経済連合」
・南アフリカ共和国の「アフリカ連合」
これらの地域ブロックは、地域、民族、歴史背景などを共有する国家の集合体です。
欧州のEUをモデルケースとし、同様の統合を南米、アフリカ、東欧、インド圏、アジア圏で行なっていくコンセプトです。
これらの地域ブロックを主導することもまた、BRICSの役割になるでしょう。
なぜなら、それぞれが所属するブロックの中で、域内国最大のGDPを持つためです。
さらに、最大のGDPだけでなく、最大の金融都市を備えている点でも共通します。
例えば、ブラジルにはサンパウロ、ロシアにはモスクワ、インドにはムンバイ、南アフリカ共和国にはヨハネスブルクというように、
BRICSの国々は、それぞれが所属するブロックの中で最大の金融都市を抱えています。
中国ブロックの場合、東アジア最大の金融センターは東京であって上海ではありません。
しかし、現時点でもほぼ同レベルであり、大陸に位置する上海は地理的にも利があります。
金融市場の対外解放の動きも追い風となり、
アジア金融の中心地は、今後、東京から上海に移動していく可能性が高いでしょう。
BRICS諸国が、各地域ブロックにおける経済、金融の中心地を抱えている現実は無視できません。
東京、大阪が日本の中心地であるのは、経済・金融の活動を行う機能が最も優れているためです。
それと同じように、地域最大の経済・金融機能を担うBRICS諸国が、各地域ブロックの首都機能を担うことになるのは、おそらく間違い無いでしょう。
今起きているのは、国境の拡大
EUに加盟する国々は、元々は別々の国家でしたが、今やEUに所属する「一都市」になり下がりました。
例えば、フランスのパリ証券取引所、オランダのアムステルダム証券取引所、ベルギーのブリュッセル証券取引所、ポルトガルのリスボン証券取引所
これらは、元は独立した別々の証券会社だったのです。
しかし現在では、ユーロネクストの下での統合が進み、
「ユーロネクスト・パリ」、「ユーロネクスト・アムステルダム」、「ユーロネクスト・ブリュッセル」、「ユーロネクスト・リスボン」と名称も変わっています。
元は独立していた各国の金融市場が、EUの下に統合しているのです。
金融は、社会の最上位に位置します。なぜなら経済主体への資金調達を担う、経済活動の源泉であるためです。
したがって、統合の動きは当然のように政治、社会の領域にも及ぼされています。
EUの域内国では、政策にもEUの影響力が強まり、国家は事実上、決定権を喪失しています。
雇用制度も見直され、域内国の住人には、平等に一様の就労権が付与されるようになっています。
それまで別々の民族や宗教観を持っていた人々を同化させているのです。
こうしたEUで見られる平準化の試みは、今後、模範例として各ブロックで再現されることになるでしょう。
地域ブロックにおいて、かつての国家は、包括的なブロックの1都市に変貌します。
これまで適用されていた国境はなくなり、ブロックが新しい障壁の役割を果たすようになります。
それまで外国同士で展開された国際競争は、「同じ域内国」として、競争から協力の関係に移行するのです。
その形成過程は、既に法則化されています。
つまり、始めに自由貿易、続いて経済協力(サプライチェーンの構築)、域内移動・雇用の自由、そして共通通貨の導入、最後に政策協調というステップを踏みます。
これらは、外国人同士を同じブロックの構成員としてまとめるステップですから、国境の拡大とまとめることができるでしょう。
こう考えれば直感的に理解できます。
現在の日本が採用する「中央政府と都道府県の関係」の更にもう一つ上に、新しく「地域ブロック」を設置するのです。
つまり、各国政府を地域統合の下位秩序に置くことで、国家が都道府県のような立場に降格するわけです。
現在の日本でも、様々な都道府県の人間がごちゃ混ぜになっていますが、これからは同じことが国家同士の間で起きていくのです。
地域統合を踏まえるなら、中国の覇権もあり得る。
これまで私は、中国の覇権を否定してきました。
しかし、それは中国一国で試みた場合の予測に過ぎません。
国家対国家の視点を地域統合に移してみると、中国ブロックの覇権は決してデタラメな話ではなくなります。
もちろん、他ブロックも統合を進め、対抗してくるでしょう。
しかし、それでも世界の覇権は、現状の米国から「東アジア地域包括的経済連携」に移行する可能性が高いのではないか、と私は予想します。
ただ、それが短期に終わるか1世紀以上続くかは、別問題ですが。
理由を説明します。
まず、国家が覇権を握るために必要な資質を、「軍事力」「研究力」「経済力」と定義します。
国家が優位を作り、それを守るには「軍事力」が欠かせません。
そして「軍事力」は、科学技術を形成する「研究力」なしには、持ち得ません。
また「研究力」を支える研究者の維持には、「経済力」が必要です。
さらに、「経済力」が弱く軍事費も捻出できない国では、「軍事力」も脆弱にならざるをえません。
このように3つのパラメータは、相補的な関係を持つのです。
例えば、「実はロシアは、世界最強の軍事力を持つ国だ」などと語る人がいますが、経済力の脆弱なロシアが最強の軍事力を持つことは有りえません。
なぜなら、研究者が高所得を求めて国外に流出してしまうからです。
さらに優秀な兵器を生み出せても、軍事負担に耐えられないと維持できません。したがって、ロシア最強説は全くのデタラメだと分かります。
つまり、「軍事力」、「研究力」、「経済力」は、「どれかが突出しているが他は劣っている」といった状態は有り得ず、しばしば平均化されます。
すわなち、「この3つのパラメータを最高水準で揃える国」が最強国家の指標となるでしょう。
これまで私が中国の覇権を「ありえないもの」と判断したのは、中国には、高度な「研究力」も「軍事力」もないためでした。
要するに、中国は軍事的に弱い国なのです。
まず、そもそも「研究力」がないので、強い「軍事力」が育ちません。
いつになっても中国から新しい技術は生まれておらず、「世界を揺るがす新発明」はいつも日欧米から生まれます。
一時期、世界を震撼させた「世界の工場」化というのも、中国という大きなモールで日欧米の外資系企業に製造を行わせたに過ぎず、
そこから技術を盗んだ国有企業に成長を担わせたのでした。
つまり技術も企業も借り物の中国は、外資なしには、生存できない国なのです。
研究力がないから、「軍事力」も「経済力」も付いてきません。
しかしここにきて時代が変わりつつあります。
長年の市場開放の結果、中国は世界第二位の経済力を獲得しました。
「軍事力」、「研究力」、「経済力」のパラメータは平均化されるので、今後は「軍事力」と「研究力」が「膨張した経済力」に接近することが考えられます。
当然、各国は、自国の「研究力」を担う人材が青田買いされる未来を懸念すべきでしょう。
それを後押しするのが、地域統合なのです。
先述の通り、地域ブロックの社会システムは、人材の移動と雇用を自由化します。
ブロックの域内に属する国であれば、従来の規制なしに好きな国で働けるようになるのです。
そうなれば、いち労働者に過ぎない研究者でさえも、最も高い給与を出してくれる国で働きたいと考えるようになります。
こうして最も経済力の高い国の下に、地域の優秀な頭脳が集まります。
優秀な頭脳が集まれば、当然優れた研究成果、イノベーションが生まれる事になるでしょう。
中国が所属するアジアブロックで見た場合、なんと日本とインドが含まれているのです。
これらの二国は、世界最高水準の研究者を抱えていますから、こうした優秀な研究者が協力すれば「世界を揺るがす新発明」が誕生しかねません。
そして、その成果はお金を出した「中国の仕事」になるのです。
イノベーションの開発担当者がインド人や日本人であっても、それは中国発の技術である「メイド・イン・チャイナ」として扱われるのです。
こうした傾向は、既に経済の面で顕著です。
今後は、研究や軍事の面で同じような光景が見られるようになるのです。
もちろん、言語、文化の違いといった障壁も残るでしょう。
しかし、経済にとって重要なことは大抵テレビ番組などで社会常識化され、定着化のプロセスを辿ります。
経済にとって雇用の自由化が重要なら、それを支える政策やテレビ番組等が作られ、やがて文化と化しいくでしょう。
つまり、研究者の移動も一般化すると考えられます。
だとすれば、「東アジア地域包括的経済連携」では、域内の優秀な研究人材が、こぞって金払いの良い中国に集まるでしょう。
そして「中国産」の優れたイノベーションを世界に披露していくことになるのです。
さらに物資の面でも、中国は14億人に迫る人口を持ち、地下には世界のレアアースの約3割を埋蔵しています。
この物量に日印の科学技術が結びつくのですから、「東アジア地域包括的経済連携」の国力は一気に加速し、世界トップに駆け上がる可能性すら視野に入ってきます。
現在の覇権大国にとっては、超大国の出現と同時に、覇権維持に欠かせない日本の喪失を意味します。
そうなれば、現在の米国覇権が揺らぐ可能性は高いのではないでしょうか。
アジアに勝つには、地域ブロック同士を統合させるしか手がなくなる。
さらに経済の面でも、「東アジア地域包括的経済連携」には他の地域には無い優位があります。
その優位とは、加盟国の「比較優位構造」にバラツキが多いのです。
この「比較優位」とは、自由貿易のために作られた概念です。
ある国にとって、最も得意な生産分野のことで、最低コストで最大の生産を狙える分野がこれに該当します。
したがって、自由貿易に参加する国の比較優位構造は、ズレが大きいほど良いことになります。
比較優位構造のズレが大きいほど、違った生産品ができるので互いの需要を埋めやすいからです。
違いに需要を埋めやすいと、適度な依存関係ができ易く、自由貿易を活発化させやすいのです。
例えば、インドが所属する「南アジア地域協力連合」では、域内自由貿易が思うように進展しません。
「南アジア地域協力連合」の域内輸出は、長年の努力にも関わらず、域外輸出に対して5%ほどの割合で停滞したままです。
これは、地域統合内の国々の比較優位のバラツキが小さいためです。
「南アジア地域協力連合」の加盟国は、もともとインド圏だったこともあり、基本的に縫製業や皮革産業が盛んなことが多く、相互に生産品が似通り、自国で作れる製品をわざわざ輸入する必要が生まれないのです。
そのため、輸入する必要のある必需品を域外に求めて、対外貿易比率が極めて高くなってしまうのでした。
いっぽう、「東アジア地域包括的経済連携」は、所属する国々の産業構造が多様です。
製造業の日本、テクノロジーのインド、資源国の中国・オーストラリア、様々な産業資源を持つASEAN。
こうした国々では、比較優位(得意な産業分野)の隔たりから自由貿易は大いに活発化するでしょう。
各国で得意な分野の生産に特化し、それを自由貿易で融通し合えば、自由貿易は一気に加速し、全体として生産性の向上が見込めるのです。
これに比べると、他のブロックは、比較優位構造の多様性に欠けます。
EUは、高度にサプライチェーン化された先進工業国の集まりです。資源の対外依存が深刻です。
ロシアブロックは、ロシアの石油を中心に資源国の集まりです。工業力の不足が深刻で、ソ連時代の工業都市であった東欧の国々は、EUに奪われてしまいました。
南米ブロックは、ほとんどが資源依存国で、工業国といえるのはブラジル、アルゼンチンといった数国しかなく、その工業力も十分ではありません。
インドブロックは、先述の通り、縫製業や皮革産業に偏っており、インドへの工業力の一極集中が問題です。
アフリカブロックは、農業依存の傾向が強く、南アフリカ共和国以外に高度な工業国がありません。
アジア以外のブロックに比較優位構造の多様性が見られないのは、
ローマ帝国なり、ソ連なり、英領インドなり、おそらく歴史的に起源を持つ統合体が基盤であるために、伝統的な産業構造が類似していること。
また、ブロックが一つの地理的に集中しているため、気候、自然条件に類似性があり、資源や生産方式が類似し易いことが考えられます。
経済価値は、「原料にいくら付加価値を与えられるか?」で決まります。
そのため、資源依存の強い南米、アフリカ、インド、ロシアといった国の集合体では、アジアブロックには到底太刀打ちできないでしょう。
そうなると、競走馬はEUと北米ですが、比較優位性のバラツキや人口規模で比べると、アジアには敵わないかもしれません。
そんな中、アジアの覇権に対抗するなら、地域ブロック同士を統合させるしか手はありません。
例えば、アメリカの「NAFTA」と南米の「ラテンアメリカ・カリブ諸国連合」は、互いにメキシコを共有しており、接続の可能性があります。
EUには、「地中海連合」という、アラブ、マグリブを加えた包括的な地域統合を進める構想があります。
さらにEUはインドの「南アジア地域協力連合」と自由貿易協定を結んでおり、すでに経済統合の最初のステップが確認できます。
南米の「ラテンアメリカ・カリブ諸国連合」と、アフリカの「アフリカ連合」は、ともに欧米の「NATO」に敵意を持っており、軍事同盟の構えを示しています。
またアジア側でも、「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」のメンバーには、インドが含まれており、
「南アジア地域協力連合」とインドを共有しています。ここにも統合の可能性が伺えます。
このように、地域ブロック同士の統合も示唆されています。
このように、一旦は、東アジア地域包括的経済連携に優位が発生するでしょうが、
やがて、その対抗として新たなブロック同士の統合が進み、覇権を狙ってくる地域が現れるでしょう。
終局的には、世界は二分され、地球覇権を巡って争う時代に行き着くのかもしれません。