Ossan's Oblige "オッサンズ・オブリージュ"

文化とは次世代に向けた記録であり、愛の集積物である。

アセットクラスとしての金が持つ特異性

投資対象としての価値を持つ対象のことをアセットクラスと呼びます。

しかし一言にアセットクラスと言っても、投資対象が持つ価値は様々です。

企業株式であれば、企業業績への先行きに対する期待が価値の裏付けになります。

株価の上昇した企業は、通常、業績を上げた、あるいはこれから利益を生み出す可能性が高いと市場から判断されたのです。

その結果、資本力を高めて経営をさらに良くしてもらおうという期待からお金が集まるわけです。

このように、企業株式は市場からの期待によって価格が決定される特徴を持ちます。

ですから、企業経営が悪化すれば、すぐさま株式の価値に反映されます。

当然ながら、株式は資金調達目的で発行されるので、価値が下がれば集まる資本も減り、企業は資金調達に行き詰まります。

その結果、経営破綻に陥った場合には、投資家が所有していた株式の価値は最悪0になります。

株式とは、その価値が0〜無限大と常に変動し続けるアセットクラスといえるでしょう。

なぜなら、価値の裏付けに実態がなく、人間の期待感によって作られているためです。


また、経営破綻は、企業の判断ミスだけから起こるものではありません。

自身はしっかりしていても、他の組織運営に巻き込まれることで引き起こされる場合もあります。

取引先の企業の経営が悪化しただけなら、投資家にもたらす被害は軽微でしょう。

しかしながら、経営悪化が国単位、それも世界経済にもたらす影響の大きな先進国に起きた場合、被害は破綻国家に関係を持つすべての人や企業に波及します。

このように国家の失敗により、その関係者全員が不況に陥る現象のことを不況、あるいは経済危機と言ったりします。

特に現代では、資金調達手段として用いられる証券取引の市場が成熟しているため、一カ所で起きた不況は、巨額の資金流出を伴って容易に大恐慌へと発展します。

アジア通貨危機サブプライム問題に端を欲するリーマンショックは、すべてこうした動きのもとに始まりました。

そうなると投資家の所有していた株式は、「価値の裏付けが安定しない」特性のために企業価値とともに価値が下がり、投資家は損失を被ることになります。

株式は、価値が青天井である一方で、価値が0化しかねないリスクを伴うのです。

特に最近はレバレッジ取引が盛んで、自己資本以上の金を借金してまでつぎ込む投資家が後を絶ちません。そのため、株式市場の値動きもたいへん大きなものとなっています。

レバレッジによる損失は、ハイリスクハイリターンであり、投資家の損失が自己資本を上回った時点で、資金を提供した証券会社に追証を支払う義務が発生します。

手持ちの資産を増やすために始めた投資が、なぜか損失という幕引に終わる。

世間で「投資運用は危険」という声がなくならないのも、こうした失敗事例が1件や2件でなく繰り返されているためなのでしょう。

特に日本人は安全を重視する民族で、石橋も叩いて渡ります。そのために失敗事例の相次ぐ投資は敬遠されがちなのかもしれません。



しかし、投資市場に出回っているアセットクラスの全てが、株式のように、実態のない期待感と結びついているわけではありません。

アセットクラスの中には、いくら経済が悪化しても大きく左右されず、絶対に価値が0にならないものもあるのです。



それが現物取引と呼ばれるものです。

株式は、企業への期待感が価値の裏付けであるため、株式は最悪紙切れになります。

ところが、現物はそれ自体が価値の裏付けになるため、壊れたり盗まれたりしない限り、市場で一定の価値が約束されます。

主な現物取引には、金、銀、プラチナ、原油といった、量が限られていて、かつ保存性が高いために値崩れしにくいもの、
また価値が小麦やトウモロコシのように気候や収穫量に左右されやすいものに分けられます。

このうち、後者は科学技術の進展に合わせて増産され価値は低落していく傾向にあります。
また価格決定に影響する気候、流通といった素人では分析の難しい要因が介在するため、除外します。

一方、前者の金、銀、プラチナ、原油といった資産は、量が地球環境内に一定で腐敗リスクもない。
また、工業需要も根強いため、常に需要が尽きない特徴を持ちます。

そのため、いくら世界が混乱に陥っても、ゼロ価値化することは絶対にありません。

現物は、株式と異なりそれ自体に実需が保証されているため、絶対にゼロ価値化することのないアセットクラスと言えます。


では、本タイトルの趣旨、金が持つ特異性とは何を指すのでしょうか?

結論から言えば、金は同じ現物取引でも、銀やプラチナ、原油とは一線を画す特徴を持っています。

そのため、金の投資戦略も、他の現物取引を扱う場合とでは違った視点で眺めなければなりません。


金と金以外の現物(銀、プラチナ、原油)の決定的な違いのひとつは、工業需要の比率です。

銀やプラチナ、原油はどれも工業需要と結びついており、総需要に占める工業需要の割合も60%以上に及びます。

しかし、金の工業需要は総需要に対して、わずか30%ほどで、工業以外の目的で必要とされることが多いのです。

それは、金本位制に代表される普遍価値の裏付けとしての伝統、延性が強く加工のしやすい特性、またその輝きが評価され、装飾品需要が大半を占めています。

また各国の中央銀行が紙幣発行の準備金として金を集めてきた歴史も、金の価値を担保しています。



こうしてみると、工業需要の高い銀、プラチナ、原油はどれも経済と結びついて、原材料的な需要がほとんです。
しかし、金の価値は経済と切り離される価値があり、それ自体が価値と結びついてるのです。「真の現物資産」といっても過言ではないのではないでしょうか。

実際に下のグラフを見ても、同じ現物資産でも、銀やプラチナは経済不況時に合わせて低迷する傾向のあることが分かります。(原油はアメリカのシェール革命に見られる通り、増産リスクが大きく、予測が大きく外れることがある。取引の実態は投機に近いため除外)

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理由は、言うまでもなく工業需要と結びついているためです。

経済不況が起きれば、破綻企業の出現によって企業活動が滞り、在庫が蓄積される傾向が強まります。

そうなると、企業は生産を減らす方向に動くため、工業製品に使う銀やプラチナの需要も落ちるのです。

つまり、銀やプラチナは、ゼロ価値化することがないメリットを持つ一方で、景気の上下に引っ張られやすい特徴があるのです。

グラフをみると、アジア通貨危機の起きた1997年~に銀価格が上昇しており、私の主張と矛盾する動きを示しています。

しかし、この時期は冷戦終結を受けてグローバル化の始まった、世界経済全体での成長期にありました。
アジアの経済危機を踏まえても、それを上回るほどの需要が発生していたという背景があったのです。

アセットクラスの価値を決める要因は1つではありません。



本タイトルの問いに答えます。
アセットクラスとして金だけが持つ特異性とは、経済動向に左右されず、むしろ景気後退時に変われるという、絶対的な価値の保証性といえるでしょう。


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(追記)本タイトルからは外れますが、私は金(あるいは銀)はこれからかつてない暴騰を迎えるとおもっています。

なぜならドナルド・トランプの存在が、現行の株バブルの進行にとってマイナス要因に他ならないためです。

アメリカから見れば海外の安い人材移民を手放すのですから、別の人材を供給でもしない限り、人件費の高騰は間違いなく米国企業の財務を圧迫するでしょう。企業業績が停滞すれば、利益も減り、株価の低落に繋がります。

それと同時に、株式市場から資本は流出を開始し、新たな利益を求めて別市場を活気づけるでしょう。


もしもトランプ政策の結果として経済恐慌が起きた時、栄える市場はどこか?
それは現物の可能性が高い。中でも銀やプラチナと違って、工業需要と分離されがちな金に人気が集中すると私は考えます。