Ossan's Oblige "オッサンズ・オブリージュ"

文化とは次世代に向けた記録であり、愛の集積物である。

資本主義に関するつぶやき

大航海時代に植民事業を任されたのは、国家直属の軍隊や官僚ではなく、企業組織でした。
あの時代のヨーロッパはほとんどが同じ方式を採用し、各国が設立した「イギリス東インド会社」はその象徴的な存在です。

こうした企業の活動から資本主義が生まれ、社会生産を効率化する制度として世界中に普及していきました。



しかしながら、資本主義は貧困を発生させます。
それもそうです。そもそものモデルが植民地での搾取事業なのですから、生産者は階層で区切られ、富の分布が偏ります。
その傾向は、18世紀の産業革命を受けてますます強まり、最終的に生産者は生産手段を持つ資本家と買い叩かれる労働者に分離してしまいました。
近代的な格差の発生です。
当初は、為政者たちも自らの立場に満足して、文明発展の成果を享受しながら貧困層を見下ろしていました。
ところが、こうした貧困層が増加するにつれ、内乱や反社会的行為が多発するようになります。
なぜか?と眺めていた為政者。しかし、こうした動きの動機が貧困にあることを知った為政者たちの間に、格差を見直す動きが出てきます。
また社会主義運動の拡大も重なって労働法が整備されていき、資本主義が持つ格差形成の側面が制御されていきました。
この資本主義に対する制御装置のことを規制(社会福祉)と呼びます。

そして1991年、世界を巻き込んだ資本主義と社会主義の冷戦(実際は代理戦争で戦いまくり)の結果、資本主義は社会主義に対して完全勝利を収めました。
社会主義は、労働者のモチベーションを破壊します。どんなに頑張っても、逆にどれだけサボっても報酬に差がでないのです。
そうなると、労働者は一生懸命働く合理性を失います。
そのようなメカニズムが国家全体で長年続けば、国家の衰退は避けられません。終わってみると資本主義に対する劣位は明らかでした。


しかし同時に、社会主義の敗北は、資本主義に被せられていた制御装置としての規制(社会福祉)が取り外されたことを意味していたのです。
世界は、自由競争を旗印に自由貿易に邁進します。
1991年には中国が対外開放。
アメリカの大企業は、規模にして豆ほどの途上国企業との自由競争に勝利を収め、新市場を開拓していきます。

また国境を超えたビジネスも可能になり、単純労働は途上国の廉価人材の仕事となります。
人件費が削減される一方で利益には変化がない。濡れ手に粟の状態を享受していた大企業ですが、大企業が抜けた本国で異変が起き始めました。
かつての中流層貧困層に転落するなど貧困問題が叫ばれ始めたのです。

当然です。
例えば、1991年に開国宣言を発した中国には、安い人件費を求めて世界中の企業が集まりました。日本からも多くの企業が進出しています。
企業としては、低賃金労働力を得らるばかりか、外国貿易に掛かっていた関税も、国内生産、国内販売にすれば不必要。
ついでに企業利益もタックスヘイブンに隠せは国家にも追及されることはありません。
先進国企業を受け入れた現地でも、雇用が生まれ、先進国に比べれば格安とはいえ、以前とは比べ物にならない給与所得が入ってくる。
まさに外資受け入れが成長の原動力、という傾向がBRICKs、中でも中国に特に顕著でした。

しかし、生産設備の海外移転によって「産業の空洞化」が起きた先進国では、雇用問題が叫ばれ始めます。
雇用提供者の大企業が、途上国に移転したのですから、先進国の雇用枠が縮小するのは当然です。
結果、先進国では、大企業が大きく栄えたのを横目に、国民の多数が失業問題に巻き込まれることになりました。
失業問題の当事者は、必死に職を探し、見事見つけても低所得。
また正規職の人でも不景気の煽りを受けて以前よりも対偶が悪化したことは事実です。

年を追うごとに開いていく格差は、まさに工場法の時代へのタイムスリップでした。
この動きにあわせて、世界各地で、「雇用を奪う」移民に対して排斥運動が活発になり、世界のあちこちで極右政権が登場します。
イギリスでは、2016年のEU離脱を巡る国民投票で離脱派が勝利を収め、イギリスとして独立する方針が表明されました。
アメリカでは、「アメリカファースト」を叫ぶトランプ氏が大統領選挙に勝利し、早くも中国との対立姿勢を明確にしています。
トランプ大統領の発言は「さすがにちょっと・・」と思わせるものが多い。そんな人物が大統領の座につけたのも、大企業による「新自由主義の推進」の結果生まれた貧困層の支持を取り受けてのことです。米国にそれだけの貧困問題が滞積していた証左です。
トランプ大統領は、東インド会社による「植民地事業の推進」によって生まれた多数の奴隷の支持を取り付けた、反乱首謀者のようなものなのでしょう。
大方の反乱は宗主国に鎮圧されていますが、彼はどうなるのでしょう。

私見
世界は、資本主義の限界を超えて新時代に突入しようとしています。
そのような中で、我々はすでに「社会主義の欠陥」を知り尽くし、多くの犠牲者を見ているにも関わらず、その場しのぎの考えで、再び「ベーシックインカム」という社会主義的政策を取り入れ、危険水域に足を踏み入れようとしています。

しかしながら、現在と19世紀の違いは、インターネットという「民衆の武器」の存在ではないでしょうか?
かつての貧民は自分の立場に対して絶望的でした。なぜなら生産手段が資本家の独占下にあり、どんなにあがいても立場を挽回することができなかった。だから団結して富裕層をブチノメスしか方法がなかったのです。ロシア革命もその状況下で起こりました。時代は異なりますがフランス革命も同様でしょう。

しかし今の時代はインターネットが存在するのです。世界には十分な富が流通しており、大部分は遠い天上界に集約されているとはいえ、総体の一部を自分の手元まで引っ張ることはインターネットの力で十分に可能です。
全ては個人の努力にかかっています。
それでも無理というのは、よほどの世間知らずか、言葉は悪いですが、いつまでも他力本願な間抜けくらいではないでしょうか。(もちろん生まれ持った困難により競争に参加できない人は例外)

私は社会が社会主義の方向に後退することを望みません。


追記)
本文では、部分部分で中国について触れました。
中国は外資熱のバブルで栄えた国です。外資誘致で雇用を創出し、シャドーバンクを使って金融膨張を起こし経済を大きく見せてきましたが、おそらく内実はボロボロです。
もし仮にトランプ大統領が雇用移転を実行した場合、現地生産の部門は巨大市場の富を求めて残るとして、輸出部門の企業は流出するでしょう。
そうなると中国の雇用が失われるわけで、日本などが追従すれば、その流れは一気に加速します。

日本もかつてはジャパンアズナンバーワンと言われた時代があったけど、内実はアメリカの掌上にある工場に過ぎなかった。
中国もいわずもがなでしょう。