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電気自動車の普及で後退する産油国と、金・プラチナ価格への影響

電気自動車によって、ガソリン車やディーゼル車が取って代わられる中で、何が起こるのでしょうか?

金とプラチナへの影響について考えてみたいと思います。


■ 世界を襲う地球温暖化問題への対策は主要各国で共通(電気自動車化)

近年、世界的な異常気象が起きています。

日本や東南アジアを襲った巨大台風では、副次的な自然災害を招き、多くの死傷者を出しました。

アメリカでも、南部アリゾナ州で気候50度を超える地域が現れ、この影響で停電や空の便の欠航が起こるなど、経済活動に支障をきたしています。

ちなみにアリゾナ州は、例年8月でも43度を下回る地域ですから、最高気温を7度上回る気温上昇がいかに異常か分かります。


こうした異常気象の背後に指摘されるのが、地球温暖化の影響です。

地球温暖化現象とは、人間の経済活動に伴う地球温室化ガス(主にCO2)が自然バランスの乱れを起こす現象ですが、

数ある機械の中でも温室効果ガスを出す割合の大きな「自動車」に白羽の矢が立っています。

現在主流のガソリン車やディーゼル車では、動力であるガソリンを内部点火する際に、温室効果のある窒素酸化物(NO1, NO2)を含む排ガスを排出します。

こうした温室効果ガスは、自然界に放出されるといずれ分解され自然に帰っていくのですが、まだ分解されていない温室効果ガスは確実に地球温暖化をもたらします。

2000年までの世界は、まだ経済都市も限られていたため、温暖化は水面下のもので大きく注目を集めることはありませんでした。

自然の浄化能力が、温室効果ガスに追いついていたためです。

しかし、冷戦が終わり、大人口地域である中国やインド、アフリカや南米が経済発展する時代になると、温室効果ガスの影響が無視できないレベルに突入します。

こうした後進国は、10億人規模の人口地域が多く、おまけに安価さを求めて排ガス浄化機能の弱い中古車を使う人が多いことから、排ガスの影響がダイレクトに自然に響きやすくなってしまうのです。

経済の発展は際限なく続くので、ここ30年間で爆発的に成長した中国のような成金国家を、市場は輩出し続けるでしょう。

そのときに、果たして自然は気温上昇に耐えられるか?

そこで各国政府から、世界を襲う温暖化に対し、団結して対処する動きが出てきました。

その一つが、電気自動車シフトの動きです。

電気自動車は、ガソリン車と違って電気モーターの回転を動力とするため、燃焼が起こる余地がありません。そのため、排ガス0の運転を実現できるのです。

この電気自動車を巡る各国の動きが注目を集めています。

イギリス・フランスはじめ、ユーロ圏の国々が、2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売終了を宣言すると

人口規模の大きなインドや中国も、電気自動車化に積極的な姿勢を示しました。

日本のトヨタも、2025年までに全車種を電気自動車化することを宣言しています。

現在主流のガソリン車を新しい電気自動車に置き換えるのですから、当然、利権構造の刷新が起こるでしょう。

言い換えれば「既得権の解体」に他なりません。

にも関わらず積極的な各国の様子を見ると、事態は予想以上に深刻なのでしょう。


■ガソリン車撤廃がもたらすレンティア国家の破綻

主要先進国および中進国は、電気自動車への切り替えに対して賛成意見で一致してますが、

「エネルギー需要を生命線とする」中東のエネルギー資源国は、あくまでガソリン車にこだわるはずです。

なぜなら、こうした国々にとって、「自国の原油」が活況を呈するには、「自動車=ガソリン車」という前堤がなければなりません。

しかし自動車動力の切り替えの中で石油需要が減退すると、石油経済は死の危機に瀕します。

石油輸出量の多い国の中には、「レンティア国家」と呼ばれる、資源輸出以外に強い産業を持たない国が多いです。

「レンティア」とは、レント収入のことを指し、つまり国土に埋蔵される天然資源の輸出代金によって運営される国家形態です。

大抵のレンティア国家が王の求心力の下に運営され、資源マネーを国民に分配することで、統治の正当性を保っています。

しかし反面、資源輸出の収益性が莫大であればあるほど資源依存が進み、他の産業分野が育ちにくくなる欠点も指摘されます。

(すでに国の産業や社会制度が育っていて、資源経済への依存がそれらへ負の影響を及ぼす場合、これを「資源の呪い」や「オランダ病」と呼びます。)

大変羽振りのよい「アラブの石油王」も、何らかの事情によって資源輸出が停滞した時に、国が立ち行かなくなる弱点を抱えているのです。

代表的なレンティア国家としては、サウジアラビアクウェートアラブ首長国連邦カタールベネズエラバーレーンオマーンブルネイなどが挙げられます。資源依存度が高いロシアも似たようなものでしょう。

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(「世界の石油輸出額」 : 2016)

「レンティア国家」を支える資源は、たいてい「原油」です。
国家財源を賄えるほどの「単価と供給量」があるのは、原油くらいだからです。

こうしたレンティア国家にとって、原油需要に大きな割合を占めるガソリン需要が失われることは、国家経済の危機のを意味します。

もちろん、今後も石油需要は根強いでしょう。

石油の火力発電は、エネルギー効率の悪い自然エネルギーを補うため、いっそう必要です。
生活必需品である石油製品(プラスチックや紙など)も、確実な需要を見込めるでしょう。

しかし、これまで石油需要を支えてきた「大衆自動車の動力」が底抜けすることによって、レンティア国家の石油経済は甚大な打撃を被るはずです。

また、こうしたレンティア国家の中には、金やプラチナ、レアメタルなどの重要資源を供給する役目を果たしている国々も含まれています。
こうした資源供給が滞った時、世界にいかなる影響が及ぶのでしょうか?


■ 自動車のEV化に伴う原油需要の減退が何をもたらすか?


1)イスラム原理主義者への影響

自動車のEV化には、世界を襲うイスラムテロ組織(ISIS)の息の根を止める、ポジティブな効果が期待できます。

ISISの活動原資は、石油の販売代金やイスラム諸国からの寄付金、銀行の収奪などによって供給されてきました。

しかしガソリン需要の落ち込みによって、中東の産油国が打撃を受けると、中東のパトロンからISISへの送金が減り、活動資金を逼迫させるでしょう。

同様に、自ら保有する石油の販売代金も減少します。

残された方法は銀行収奪ですが、略奪を警戒する銀行や警察も武装済みでしょうから、強力な武器なしには実行不可能です。
こうして武器のコストも増えます。

このように自動車のEV化は、石油マネーに依拠するISISを手詰まりに追い込み、組織解体を促すことが考えられます。

2)金価格への影響

石油需要の落ち込みが、金価格を押し下げる可能性を指摘できます。

金生産量の上位10国は以下の通りです。(2017年)
2017年の世界全体の金生産量3,150トンのうち、上位10カ国で約64%を占めていることがわかります。

1位  中国(14%)
2位  豪州(9%)
3位  ロシア(8%)
4位  米国(8%)
5位  カナダ(6%)
6位  ペルー(5%)
7位  南アフリカ(5%)
8位  メキシコ(3%)
9位  ウズベキスタン(3%)
10位  ブラジル(3%)

(出典 :Let’s GOLD https://lets-gold.net/chart_gallery/chart_gold_mine_production.php

石油と金市場への影響については、産出の多い、上記10ヶ国の動向が重要になります。
これらの国々に占める、石油の経済的重要性はどの程度のものでしょうか?

そこで、世界各国の貿易統計をはじめ、各種資料を提供するGlobal Edge(https://globaledge.msu.edu/)を参考に、2017年の金産出の上位10ヶ国の輸出に占めるエネルギー資源の割合を抽出しました。(2017年)

結果は、以下の通りです。

1位  中国(1.28%)
2位  豪州(25.6%)
3位  ロシア(47.2%)
4位  米国(6.46%)
5位  カナダ(16%)
6位  ペルー(6.44%)
7位  南アフリカ(9.58%)
8位  メキシコ(4.85%)
9位  ウズベキスタン(不明)
10位  ブラジル(6.25%)

(出典 : Global Edge https://globaledge.msu.edu

参考に用いた統計では、「エネルギー資源」という、「石油と石炭と天然ガス」を一緒に組み込んだ指標を使っているため、正確には「輸出の原油依存度」を表す数字ではありません。

しかし、大まかな傾向を読み取る目的としては、問題ないと思われます。

まず、これら9ヶ国(ウズベキスタンは統計が無いため除外)の全てに「産業の多角化」が確認でき、資源産業以外の有力産業を持たない「レンティア国家」は存在しませんでした。

しかし、オランダ病の傾向が見られる国は、3ヶ国が確認できます。

それは、エネルギー資源が全輸出の10%以上を占める、ロシア(47.2%)、オーストラリア(25.6%)、カナダ(16%)の3国です。
このうちオーストラリアは、国土に占める天然資源が石炭に偏っているため、輸出品の中核でない原油の需要が減退しても、深刻なダメージを招く可能性は低いでしょう。
一方、ロシアとカナダの2国は、エネルギー資源に占める天然ガスの比率が高い点は共通しつつも、原油は主要な輸出品であり、その抜け落ちは、大きな経済損失に繋がります。

また残りの、米国や中国など6ヶ国(統計不明のウズベキスタンを除く)には、エネルギー資源への依存は確認されませんでした。
いずれも強い代替産業(工業や産業資源)があるので、原油輸出が落ち込んでも、別の産業部門で補えそうです。

したがって金産出の上位10ヶ国のうち、原油需要の落ち込みが深刻な打撃になりうるのは、ロシアとカナダの2国です。
これらの2ヶ国の生産分は、全体の約14%に達し(ロシア8%、カナダ6%)、価格への影響が懸念されます。

考えられる可能性としては、金の増産を行うことです。

これは原油輸出の落ち込み分を補うためであり、価格へは下落圧力として作用します。

もちろん、金価格を決める要因は多岐に渡ります。
ロシアとカナダの行動が直接、「金価格の下落」に直結することはないでしょう。

しかし、今後の金価格を占う上で、「自動車のEV化」が下落要因のひとつになりえることは確かです。
それは、世界の金生産の14%近くを担う「ロシアとカナダ」の原油収益が損われ、財源補填のための増産が実施される懸念があるためです。


3)プラチナ価格への影響

世界のプラチナ生産は、限られた国々に集中しています。

プラチナの生産国と生産量(2017年)

1位 南アフリカ共和国 140トン(71%)
2位 ロシア  21トン(11%)
3位 ジンバブエ  15トン(8%)
4位 カナダ  12トン(6%)
5位 米国  3.9トン(2%)
その他   4トン(2%)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
合計    約196トン
(出典 : U.S.Geological Survey - Mineral commodity summaries 2018, PLATINUM-GROUP METALS)

2017年のプラチナ生産量約196トンのうち、約71%を占める140トンを1国で生産しているのが、南アフリカ共和国です。
この南アフリカ共和国は、非産油国に該当し、国内の原油生産量はほぼありません。
エネルギー輸出の割合は高いですが、これは豊富な石炭の輸出のためであり、この石炭を石油に転化する技術によって、石油自給率も28%を達成しています。

したがって、ガソリン需要が減退しても、南アフリカ共和国へのダメージは極めて小さいと思われます。
大きなダメージが予測される「ロシア・カナダ」との貿易割合も、輸出・輸入ともに1%未満となっており、これらの影響も軽微です。

しかし、金と同様に、主要な産出国に「ロシアとカナダ」を含む点は、プラチナも同じです。
南アフリカに次いで、プラチナ生産の11%(世界第2位)を担うロシアは、石油生産量・世界第3位(2017)の産油国です。
同じく6%を担うカナダ(世界第4位)も、2017年の石油生産量・世界第4位(2017)の産油国です。

つまり、原油需要の落ち込みが起きた際にダメージを受けやすい「ロシアとカナダ」によって、全プラチナ生産量の17%に被害が及ぶことが分かります。

例えば、落ち込んだ原油収入分を、プラチナの増産で補おうとする動きが想定できるでしょう。
市場への供給量が増えれば、プラチナ価格は下落圧力に晒されます。

また、「自動車の触媒需要」も重要です。

ガソリン車の時代には、排ガスの浄化機能のため、触媒部品としてプラチナが不可欠でした。

この触媒需要が全プラチナ需要の40%を占めたとされ、BRICSの発展が価格上昇に直結した理由にもなりました。

ところが、モーターの回転で動く電気自動車は、排気ガスを出しません。そのため触媒を備える理由がありません。

したがって、これからは今までのプラチナ需要の40%が失われる方向に向かうのです。

もちろん、プラチナは優れた特性を持つ資源です。(銀色の光沢、科学的安定性、腐敗しない)といった性質は市場から無視されないでしょう。

価格の下落は、必ず新しい需要を生み出すきっかけとなり、そのときの上昇反発は、採掘量4,000トンの希少性も加わって、大きなものになるはずです。

しかしながら、「需要の40%減」や「増産の恐れ」といった下落要因に対して、それを補えるだけの上昇要因がほとんど見当たらないのが現状です。

したがって、新しい需要が作られるまでは、プラチナ価格は下落に向かう可能性が高いといえるでしょう。

■ EV化と資源価格のまとめ

自動車のEV化によって産業構造の大転換が起き、資源需要も大変動を迎えつつあります。

そのときに、まずダメージを受けるのがガソリン需要ですが、産油国へのダメージをきっかけに、連鎖的な資源価格の変動が巻き起こる可能性が指摘できます。

今回検討した金とプラチナでは、ともに主要な産出国にロシア、カナダという産油国を含んでおり、これら2国は石油が高い経済的重要性を占めています。

そのため、ロシアとカナダへの打撃によって、その他の資源が補填のための増産圧力に見舞われることが考えられます。

ただし、非工業資源である金は、工業資源であるプラチナに比べて、下落幅は小さなものになるでしょう。

プラチナは、ガソリン車の触媒需要40%を失う一方で、金には工業需要がなく、喪失要因が少ないためです。

経済大陸アフリカ (中公新書)

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