Ossan's Oblige "オッサンズ・オブリージュ"

文化とは次世代に向けた記録であり、愛の集積物である。

今、インド投資が熱い?その理由をまとめてみた。

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インドが中国の次の市場として注目を集めている

中国は低成長局面に突入した

政治重視に徹するトランプ大統領の登場で先行きが見えない米国。

中国の経済成長率もバブルが峠を越え、なだらかな下降を辿っています。

二大経済大国の行き詰まりは、互いの製品に関税を掛け合う熾烈な貿易戦争へと発展。

資本主義が飽和状態に達しつつあることはもはや誰の目にも明らかです。

そんな中、新たな成長市場として熱い視線を集めている市場が存在します。
それがインドです。

インドの魅力

インドが中国に続く経済大国への道を歩んでいることは間違いありません。

なぜなら、2000年頃に登場した有望国"BRICS"の一員に名を連ねているからです。

人件費削減を求める多国籍企業は、国境の向こう側にいる途上国の安い労働力を起用することでコストカット需要を満たしてきました。

冷戦終結後、真っ先に「世界の工場」のポジションを手にした中国経済の躍進は周知の通りです。

しかし、1992年の改革解放路から27年が過ぎた現在。

賃金インフレが、多国籍企業から中国に居続ける合理性を奪いつつあります。

政治的にも、中国共産党による米国覇権への挑戦や周辺国への拡大主義は目に余るものがあります。

賃金高騰と政情リスクを背景に、中国を離れていく多国籍企業が増え続ける中、多国籍企業の新たな製造拠点として注目を集めているのがインドなのです。

13億人の人口を誇る”BRICS”の国、インドは、世界屈指のIT大国に成長したとはいえ、発展の恩恵を享受できたのは国内の能力あるエリートだけです。

伝統思想であるカースト意識は現地に根強く、豊かになっていく富裕層を尻目に、取り残された貧困層は未だ劣悪な生活条件の狭間を漂っています。

つまり、インドは改革解放が始まってまだ間もない頃の中国と同じ条件を備えているわけです。


インド投資を妨げてきたマイナス要因

膨大な人口を持ちながらインドが中国の後塵を拝してきた理由は、国内の悪条件に尽きます。

格差問題
衛生問題
官僚主義の腐敗
インフラの未整備

格差が当然視される地域の経済圏は爆発力に欠けます。

下層階級に上昇思考が伴わないからです。

現地の衛星状態も生活ラインぎりぎりという過酷なもので、先進国の恵まれた環境で過ごしてきた多国籍企業の社員が過ごしたくなるような場所ではありません。

インフラも先進国経済の需要に応えられる状態になく、整備なしに持ち込めば、生活、移動、流通などの面で支障をきたすことになるでしょう。

こうした現実に対して、これまでも諸外国が手を差し伸べてきました。

しかし官僚主義の腐敗が発揮され、予算として計上される前に官僚一族の懐に納められるので、なかなか成果は実りません。

インドにとっても外資の力が必要

インドもまた多国籍企業の力を必要としています。

たしかにインドは平均経済成長率を達成してきた成長国です。

世界のアウトソーシング需要の%を一国で担い、アメリカのIT業界はインド系人材なくしては成り立ちません。

しかしながら、インドの経済発展を牽引してきたのは十分な教育と機会を享受できる上流層であり、発展の恩恵を受け取れる層は一部に限られていました。

中流以下の階層は、取り残されたまま放置され、村の飲食店や第一次産業への従事を余儀なくされています。

もはや、インド人の機会の不平等は、インドの伝統的な論理では解決できません。

日本人が上下意識を捨て去れないように、インド人から階級意識を取り上げることは不可能だからです。

インドの下層階級へチャンスを与えるには、世界の多国籍企業が下層工程を持ち込むしかありません。

多国籍企業が持ち込む業務は最下層の人々に最適化されたマニュアルワークで、教育を受けていない人でもこなすことができます。

先進国基準の指揮の下、最下層階級の人々に平等に仕事を割り振れば、経済的に国民の底上げを図ることができます。

冷戦時代、インド人は資本主義と社会主義の中間に立ちながら世界情勢を眺めてきました。

そんなインド人も、社会主義が国民を幸せにしないことを知っています。

中国を毛嫌いしつつも近年の経済発展によって、豊かになった中国人の姿を見ているからです。

実際にインドが、多国籍企業の受け入れに踏み切ろうとしていることは、2014年にナレンドラ・モディ首相の掲げた経済政策を見ることで見えてくるでしょう。

ナレンドラ・モディ首相のモディノミクス

これまでのインドは、とても外資系企業が進出したくなる環境ではありませんでした。

格差を正当化する伝統
動物の糞尿が散乱する道路
大都市でも頻発する停電
脆弱なネット回線
行政の汚職

日本の安倍晋三首相がアベノミクスを提唱した2013年の翌2014年、インドのナレンドラ・モディ首相は大規模な規制緩和を含む経済改革、いわゆる「モディノミクス」を発表しました。

この政策では、インドの発展を妨げていた諸問題の解消が掲げられています。


一例をあげるなら、「クリーン・インディア」では、インドの劣悪な衛生環境を改善することに貢献するでしょう。

これまでのインドは、浄と不浄を分けるヒンドゥー思想から、「汚れた」トイレを自宅に置いていない家庭がほとんどでした。

しかし、欧米企業の協力(※1)もあり、インド全域に、誰でも使用できる最先端の公共トイレが設置されていく予定です。

また、この動きに合わせて、他人の「野グソ」を発見した場合は、写真を撮って報告すれば、褒賞品がもらえるといった村まで現れているようです。

ここで撮影された写真は、村長によってコピーされ、村の掲示板に掲示されます。

つまり、「野グソ中」の写真を掲示板に貼るという恥をかかせることで、野外での排泄行為を抑制しようという試みです。

並行してインドのいたる場所に清潔で「閉鎖的な」公共トイレを設置することで、衛生状態の悪化に歯止めをかけられる見込みです。

これはモディノミクスの一例に過ぎません。



また同時に外資の出資比率100%の容認によって多国籍企業にも門戸が開かれることになります。




このように、インドは多国籍企業のエネルギーを借りながら、立ち後れた自国の発展に本腰をいれて乗り出そうとしています。

この方針は中国に代わる新しい進出先を求める多国籍企業の需要とも一致しており、おまけに世界のGoogle、Microsoftなどの重鎮の少なくない割合はインド系人材によって占められています。
このことからも、インドの経済発展はもはや予言された未来であることが分かります。



これはモディノミクスの一例に過ぎませんがインドのインフラの改善が大きく前進することは間違いないでしょう。



インドのポテンシャル

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1 インドのこれまで

インドが「投資に適さない国」となった経緯を説明します。

カースト制度
国内の分裂
イギリスによる植民統治
冷戦時代

カースト制度

インド人同士を隔てる格差問題は、カースト制度に起源を持ちます。
中央アジアから侵略者アーリア人が、自身の支配を正当化するために作った身分制度です。

インドの南北で人種系統は、白色系と黒色系に分かれがちです。

2人種の混血が進まなかった(ただし、インド人男性のY型遺伝子の約52%がイラン系人種のハプロタイプである
R型を持つ)理由も、このカースト制度に原因があるといえます。

インドに進出したアーリア人は、原住民との混血を嫌い、人種に基づく身分制度を創りました。

つまり白い肌の純系アーリア人を、神の代理人である最高位(バラモン階級)に祭り上げ、黒い肌の原住民を悪魔とみなし最下層に追いやったのがカースト制度の起源です。

白人支配層が原住民を最下層に貶めて搾取した例は、南アのアパルトヘイト(人種隔離政策)、オランダのインドネシア統治など枚挙に上がりません。

インドのカースト制もこれと同じ種類の差別だといえます。

インド人の80%を占めるヒンドゥー教も、バラモン教というアーリア人至上主義の宗教から発展した宗教です。


国内の分裂

ヴィシュヌ神とシヴァ神(ヒンドゥー教の最高神)が「創造と破壊」を象徴するように、インドもまた統一と分裂を繰り返してきた歴史を持ちます。

この分裂状態が、外敵の侵入に抵抗する能力を失わせ、インドの荒廃を助長しました。

例えば、統一の時代の終わりを告げたヴァルダナ朝の崩壊の後、7〜13世紀のインドはラージプート時代と呼ばれる分裂期に陥ります。

同時代、西方からイスラム勢力の拡大が及ぶも、分裂状態にあったインドは、一致団結して抵抗することができません。

北インドのイスラーム化が進み(デリー=スルタン朝)、後にはイスラム系王朝によるインド統一が実行されます。

さらに、英仏の植民主義が押し寄せた時も、インドの分裂体質は利用され、分割統治を許すことになりました。

この分割統治の影響は、インド、パキスタン、バングラデシュという、元来「1つのインド」だった3つの国にその名残を確認できます。


イギリスによる植民統治

インドの荒廃を決定づけたのは、イギリスによる植民地統治だといえます。

インドへ進出した2大勢力(イギリスとフランス)の間で、インドの支配権を巡って3度の衝突(カーナティック戦争)が起こりますが、結局イギリスが勝利を手にします。

折しもこの時、イギリス本国で進行していた産業革命がインドの命運を決定づけます。

インドを原料供給地と位置付けたイギリス資本主義は、インド全土の植民地化を断行。

現地の内政を掌握し、重税で収奪した税収で奴隷労働の成果物を買い占め、本国へ持ち去るという略奪を実行に移します。

さらに本国で大量生産した安い工業製品を持ち込み、土着の綿産業を崩壊に追いやったため、現地でイギリスへの不満がわだかまります。

こうした反乱の火種を消すために、イギリスは現地勢力や異教徒同士の不和を煽り、巧妙に敵意の矛先をインド人同胞に向けさせました。


1857年には、ついにイギリス統治への不満がインド大反乱として爆発するも、結局は鎮圧され、以降はイギリス領インド帝国に組み入れられます。

そして第二次世界大戦後にはイギリスから独立を迎えますが、ヒンドゥー教徒のインドとイスラム教徒のパキスタンとして分離独立を強要され、相互憎悪を抱き戦火を交えるなど、分割統治の根は詰みきれていません。

冷戦時代

イギリス東インド会社を相手に戦ったインド大反乱は、北インド全域を巻き込む大事件でした。
つまり、インド人は、イギリス東インド会社(植民地主義=資本主義)への抵抗を通してアイデンティティを確立しました。

第二次世界大戦が終わり、世界が冷戦時代に突入すると、インドはアメリカ陣営の資本主義と距離を置きます。

かといって、ソ連側にもつくこともなく、非同盟外交により国内産業の保護を貫きます。


冷戦期のインドが目指したのは、自主独立路線。

内需の保護と育成を目指した点で、日本の鎖国時代のような時期だったといえます。


とはいえ、市場を閉ざすと内需は成長しますが、外国の知識や競争からも排除されるため、技術革新からは遠ざかることは、日本史が例証する通りです。

いざ冷戦が終わってみると、インドは官僚主義の横行する、遅れた後進国になっていました。



インドが抱える問題点


1 格差問題

インド人の差別意識は、彼らの宗教観(ヒンドゥー教)と結びつくため、一概には消し去れません。

カーストは、前1500年ごろに作られたヴァルナに起源を持ち、今日まで絶えることなく実践されてきました。

カースト差別は憲法でこそ禁止されていますが、今日でもインド人の文化規範に強く刻み込まれています。

ヴァルナはバラモン(司祭)、クシャトリア(武人)、ヴァイシャ(商工業者)、シュードラ(賎民)の4階級から構成され、階級ごとに独自の生活規範を持ちます。

この階級区分の上位に属するほど、人間の「浄」の度合いが高いと見なされますが、ヴァルナの階層区分の外にある「ダリッド(不可触民)」と呼ばれる階層が存在します。

これがインドの最下層民です。

ヴァルナに属さない「汚れた」存在のため、生まれながらの蔑視、虐待、迫害の対象となります。

就くことのできる職業も、「不浄」な血、死、排泄などに関わるものに限定され、苛烈な低賃金を余儀なくされます。

今日でも、バラモン階級出身者による不可触民出身者への差別、暴行などの事件が記事に上がることがありますが、これは「ヴァルナ」の意識が今日に継承される証左といえるでしょう。



こうした「下層階級の当然視」は、国民の底上げを阻害するので、経済成長を目指す上での弊害といえます。

こうした状況下で、経済的な平等政策によって差別の実態を解消しようとする動きが取られてきました。

カースト差別は、1950年制定の憲法で禁止。公職にも不可触民出身者の採用枠が設けられました。

さらに1997年には、不可触民出身のナラヤナン氏が大統領に就任。

2017年には、不可触民出身のラム・ナス・コビンド氏が、歴代2人目の不可触民出身のインド大統領に就任しています。


この動きをブーストしたのがIT産業の登場です。

インドはIT大国として、毎年数万人規模のIT技術者をアメリカへ派遣する人材輩出国です。

米国を代表するGoogleもWindowsも、経営陣を見ればそのCEOはインド人です。

これほどのIT人気は、IT産業が出自を問わない実力重視の業種であることと切り離せません。


とはいえ、現在でもゴミ拾いや糞尿処理など、最下層の仕事に従事しているのは、不可触民出身の人々がほとんどのようです。

ぬぐいきれない差別は存在するものの、モディノミクスに含まれるIT政策は、こうした出自の人々に更なるチャンスを与えることになるでしょう。


2 インフラ整備の遅れ

インフラが弱い国に、資本は集まりません。

インドの道路は、ひび割れ、崩れ、戦闘でもあったのかと思うくらい損傷していることが多いです。

そもそも道が舗装すらされていない土がちな道路では、降雨の後、ぬかるみが生じ、歩くことすら満足に行えなくなります。

おまけに浄水機能の整備も不十分なところが多く、水が溜まった箇所での殺菌の繁殖、悪臭などの原因になります。

また、都市を歩き回る牛は神聖視の対象なので、牛糞も処理されません。

舗装されていない土がちな道では、牛糞が土に混ざり、衛生問題に拍車をかけます。

雨水や糞尿を吸収して、ぬかるんだ臭い道を歩きたがる外国人はいないので、外資進出の妨げになります。


送電網の弱さも問題です。

インドは、電力不足を抱えており、都市の停電は日常茶飯事です。

筆者は、バンガロールにある「ブリゲードロード」という大型のショッピングストリートで停電に遭遇したことがあります。

夕方だったので既に辺りは薄暗く、停電が生じたことでストリート内は暗黒に包まれました。

このストリートに並ぶお店は、外国の製品が並ぶ、中流層向けのお店ばかりです。

そのような場所ですら停電が起きたのでは、強盗の良いカモになるだけです。

とてもリスクを嫌う外資系企業の投資対象には選ばれません。

また停電は、ネット回線も止めてしまいます。

現在は、世界各国がお金持ちの投資家を呼び込むべく、しのぎを削っていますが、突然の停電、ネット回線の断絶が頻発するような国で、仕事をしたがる投資家はまずいません。

インドの経済成長を起こすのであれば、インフラ整備は絶対の前提です。

これもモディノミクスで大幅に前進する見込みです。

3 衛生問題の放置

インド人の衛生意識を改善しない限りは、インフラ整備を行ったところで、また汚染されるのがオチです。

インド人の衛生観念は、明らかに欠如しています。

インドでは、市民のゴミのポイ捨て、立ち小便は、日常の光景です。


こうした行いは先進国では市民から睨まれるのですが、ヒンドゥー教の規範ではOKなのか、誰も疑問を差し挟みません。

ゴミのポイ捨ては日常で、自然に還らない工業製品のパッケージ、缶などが次々と投げ捨てられるので、街はゴミで埋め尽くされていきます。

市民の日常食であるフルーツの皮や食品の食べ残しなどが、腐敗して悪臭を発するケースもよく目に付きます。

さらに人間の排泄物は、ヒンドゥー教的に「不浄」の対象です。

したがって家の中ではなく、茂みに隠れてやらなければいけないのです。

つまり、ヒンドゥー教の生活規範は、近代的な衛生観念と折り合いません。


また、近年の経済発展にあわせて、自動車やバイクを利用する人が増えてきました。

しかし、インド人が乗り回す自動車やバイクは、大半が先進国産の中古品です。

安さをいいことに排ガス規制をクリアしていないものも多いですが、市民は平気で使います。

この傾向に13億人という人口規模の巨大さが拍車をかけ、インドの大気汚染を深刻なものにしています。

例えば、ある調査の報告によると、ニューデリーでの1日間の滞在は、喫煙10本分に相当するそうです。

筆者が利用した南インドのバスターミナルも、真っ黒な排気ガスが充満して、10分といられないような状況でした。

そんな健康被害の心配のある都市に、外国人を定着させることは難しいといえます。


インドが持つ長所

インドが抱える問題は膨大ですが、秘めたポテンシャルも並々ではありません。

インドが持つ特異点について説明したいと思います。

製造業ボーナスなしでの経済発展

インドはイギリス資本主義の支配を受けた国だったので、その反省から冷戦時代は保護主義で通しました。

しかし、冷戦後に資本主義の時代が訪れると、インドも世界経済に組み込まれます。

ところが、長年の保護政策をとってきたインドのシステムは、保守的な法律や慣行、インフラ整備の遅れなど、とても世界と競争できるような状態にはありません。

また植民地時代に根付いた産業構造のせいで、世界で戦える大企業の育成にも失敗しました。

だとすれば、残された手は、中国がしたように市場開放しかありません。

ところが、インドの保護主義の伝統は外資誘致と相性が悪く、劣悪な衛生環境が、さらに外資誘致を遠ざけます。

窮地に立たされたインドは、手持ちの駒で戦うことを決意します。

インドに残された駒とは、「0の概念」を生み出した数学的才能と、イギリス統治下で獲得した英語能力でした。

冷戦が終結した1990年代以降は、ちょうどITが世界的に普及していく時期にあたります。

ITを世界に普及させるには、ITインフラを支える優秀なエンジニアが大量に必要です。

このトレンドの中で、インド人は、持ち前の能力をいかんなく発揮して成功を収めます。

インドといえば、「IT大国」の呼称が定着していますが、それはインド国内のITインフラの成熟ではなく、優秀なインド人エンジニアを大量に世界市場に供給することで勝ち取った称号といえるでしょう。

もともと数学的素養が高く、英語も理解できるインド人は、ITへの適性が高かったのです。

インド政府がIT重視の方針を打ち出すと、優秀なITエンジニアが大量に育成されました。

さらに幸か不幸か、イギリスの植民統治を受けた経験から、国民には英語の読み書きの技能が備わっていました。

英語能力は、世界企業から仕事を受注する上での大きな原動力になります。


IT人材に牽引された成長

IT領域に限っては、インドへの多国籍企業の進出は、すでに実施済みです。

世界企業は、安くて優秀なインド人材を囲い込むための施策を実施してきました。

世界企業はネットワーク越しに、インドのIT企業へ業務プロセスを発注。

いわゆる、BPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)と呼ばれる案件が殺到します。

2012年のIT分野におけるインドのBPO(IT系開発プロセスの受注)は総額10兆円規模。

これは市場全体の58%を占める額です。

さらに近年では、有能なIT人材を囲い込むべく、世界中の企業がインド国内に開発拠点を設置しています。


また、インド国内での受注だけでなく、出稼ぎのためにインドを離れていくインド人の姿も現れます。

2000年から2008年までの間、アメリカでインド人技術者に発給されたビザの数は、年間10万人を突破しました。

そればかりか、アメリカに進出したインド人エンジニアが、名門IT企業の中軸を占めるようになっているのです。

この動きは、特に以下のような人たちに象徴的です。

多国籍IT企業の幹部に名を連ねるインド人サンダー・ピチャイ - Googleの現最高経営責任者(CEO)
ニケシュ・アローラ - 元グーグルの上級副社長、元ソフトバンク代表取締役副社長
アミット・シングハル - 元Google上級副社長、元Uber幹部
ヴィック ガンドトラ - 元Google最高責任者

世界第2位の時価総額を持つグーグル(現アルファベット)の中枢に、多くのインド人材が就いているのです。

上級幹部だけでもインド人材が目立つのですから、末端まで含めるとインド人雇用者の数はさらに増えるでしょう。

現にマイクロソフトでは、全社員の36%がインド系人材だとされています。

こうした高い評価を受けるインド人材の給与も高くなっており、オラクルは、インドの最高学府であるインド工科大学の学生に対して、初任給で年収1300万ルピー(約2200万円)のオファーを提示しました。

アメリカで成功を収めたインド人の海外送金が、大きな収入源となることは疑うまでもありません。

このように、インドの発展は、一定の教育を受けることのできた人材の能力に牽引されたものでした。

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製造業ボーナスを使わずにこの曲線を描いてしまう

つまり、非熟練人材の登用による労働集約型の「外資系製造業の誘致」による経済発展は十分に発揮されていないのです。

これまでのインドは重い道着を着て戦っていたに等しいのです。

これが外され、雇用のチャンスが社会の全階層に開かれた時、インドの発展は真価を発揮することになります。


モディ首相の掲げるモディノミクス

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カースト差別に基盤を持つ貧困問題の克服

インドの経済成長を妨げているのは、最下層階級の貧困です。

インドからカースト制度は姿を消しても、人々の意識から差別思想が消え去ることはありません。

つまり、人間には位があり、一定数は最下層階級に座るべきだという意識です。

汚穢にまみれたまま放置されている都市は、おおかた貧困層の住むエリアです。


実際、これまでのインドの経済成長は、BPOやアメリカ進出など、基本的なIT環境と教育を持てる、中流以上のインド人に牽引されたものでした。

インドの経済発展を開くには、最下層民にもチャンスを与えなければなりません。

これにフォーカスされた施策がモディ首相のモディノミクスと見てよいでしょう。

この政策では、外資系製造業の誘致と、膨大な公共事業の創出により、需要を想起します。

製造業も建設もITのように特殊技能を要さない、「誰にでもできる」仕事です。

つまり、発展の枠外に置かれ、取り残されてきた最下層民に、雇用の道が開かれます。


モディノミクスには大幅な外資規制の緩和を含むため、インドの安い労働者を求めて、世界企業がインドに殺到するでしょう。

こうした世界企業がインド人に、差別なく働き口を提供していくのです。

最下層民が豊かになれば、それに応じて都市の衛生、インフラも改善し、国家全体の経済水準を向上させることが可能になります。


モディ首相のモディノミクスの先行きを全世界が固唾を飲んで見守っています。

このトレンドとチャンスに、日本人も敏感になるべきでしょう。