Ossan's Oblige "オッサンズ・オブリージュ"

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ドレミの音階はどうやって作られたかザックリ語る【数学の産物】

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近代音楽を象徴する西洋音楽。
西洋音楽の象徴のひとつがピアノの美しい音色です。
では、「ドレミファソラシド」という近代音楽の音律はどうやって作られたのでしょうか?
3分で読める量で、ざっくりまとめたいと思います。

1. 音律の起源は数学

音楽と数学と切り離すことができません。
一見、ドレミファソと数学は馴染みませんが、音律「ドレミファソラシド」は数学的計算から割り出された周期律なのです。

時は紀元前6世紀のギリシャ。
タレスによって自然哲学の萌芽が生まれたこの時代に、ある宗教団体が活動していました。
それがピタゴラス教団です。

このピタゴラス教団は、紀元前6世紀の古代の研究機関であり、「万物の根源は数である」という教理に基づいて、現象の規則性を数学的に探求した最初期のグループです。
研究者の選別には、人材の好奇心だけでなく、生来の数学的素養で選別するほどの徹底ぶりでした。
古代の天才を結集した大研究事業の結果、今日に伝わる「ピタゴラスの定理」といった諸定理の発見に成功します。
とはいえ、教団内の発見は全てピタゴラス個人の業績に捧げられていたようで、一概にピタゴラスの功績と見做すことはできません。
しかしながら、「音律の発見」も、このピタゴラス教団の功績だったことに違いはありません。

何が数学的だったか。
それは、音律(ドレミファソ・・・+黒盤を含む12音)が周波数から導き出されたことに他なりません。
弦で例えると、周波数は、弦の振動数を表し、弦の長さに比例します。

古代ギリシャの社会は音楽に満ち溢れていました。
数学的秩序を重んじたピタゴラス教団は、「無秩序な音」に対して、位階の設定を試みます。

最初の設定は、音の範囲です。
古くから、ある音の周波数(弦の振動数)が2倍になると、音域が1つ高くなることが知られていました。(1オクターブ上)
同様に、ある音の周波数が1/2になると、音域は1つ下に下がります。(1オクターブ下)
したがって、音律の各音は、基準の音〜周波数2倍(1オクターブ)の範囲内に配置しなければなりません。

また、音律は音楽(楽器演奏)の道具ですから、各音が響き合わなければ使い物になりません。
各音の条件は、互いに響きが良いことです。

この前提の下に、基準の音(根音)を決定します。
まず、「ド」に相当する音は、一本に伸びた弦を弾いた時の音に決定しました。
続いて、第2音。ここに数学が関わってきます。
ピタゴラス教団の発見は、ある音と周波数比3倍の音を重ね合わせると、心地よく共鳴することでした。
言い換えるなら、弦の長さが1:3の関係にある2音は、よく共鳴するのです。
これが重要なヒントになりました。

しかしこのことは、ある問題を孕んでいます。
周波数比3倍の音は、1オクターブ(周波数2倍)の制限を超えているのです。
したがって、この周波数比3倍の音をそのまま第2音とはできません。

そこで、ピタゴラス教団は叡智を絞って、周波数比3倍の音に1/2を乗じたのです。
なぜなら、ある音の周波数に2倍の倍数波を持つ音は、オクターブ分、上下する同音の関係にあるからです。
周波数を2倍すれば上、1/2倍すれば下に移動するのが音の性質です。
この性質を生かし、根音ドに共鳴的な第2音を、3/2(周波数比3倍 × 1/2)の乗法によって導きました。
これが「ソ」です。

こうして発見した「ソ」に対して、また3を乗じ、根音に対する周波数比2倍(1オクターブ)の制限を超えないように、適宜1/2を乗じて根音ドと同じオクターブ内に配置していきます。
この操作を12回繰り返すと、12音目が根音ドに限りなく接近します。
これを最終音として操作を止め、音律の完成としたのでした。
こうしてできたのが「ピタゴラス音律」です。

しかしながら、2と3は互いに素数です。
そのため、3の階乗 / 2の階乗 = 2が成立する、階乗の組み合わせは存在しません。

したがって、実際のピラゴラス音律は、各音の周波数が均一化することはなく、若干の差を持っていました。
この差は「ピタゴラスのコンマ」と呼ばれ、複旋律で演奏した時に不協和が生じる欠点の原因となりました。
8〜9世紀のグレゴリオ聖歌は、ピタゴラス音律で演奏された楽曲ですが、見事に単旋律ですね。
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2. 音律ドレミファソラシドのルーツは11世紀

代表的な音律の階名は「ドレミファソラシド」ですよね。
日本の音楽では、「ハニホヘトイロハ」を使うので混乱する初学者も多いと思います。

さて、この「ドレミファソラシド」はどこから来た名前でしょうか。
「ドレミファソラシド」の間にアルファベットABCDEFGのような規則性はありません。

実は、この「ドレミファソラシド」は、中世ヨーロッパのある楽曲の歌詞に由来します。
暗号のようですが、楽曲の頭文字をとって、「ドレミファソラシド」としたのです。

その楽曲の名前は、11世紀の「聖ヨハネ賛歌」です。

Ut queant laxis
Resonare fibris
Mira gestorum
Famuli tuorum
Solve polluti
Labii reatum
Sancte Iohannes

(大意)
あなたの僕(しもべ)が
声をあげて
あなたの行いの奇跡を
響かせることができるように
私たちのけがれた唇から
罪を拭い去ってください
聖ヨハネ様。

(wikipediaより)

(※Utは発音しやすいDoに変更)

キリスト教の賛歌ですね。
音律「ドレミファソラシド」から見ても、近代音楽そのものがキリスト教の産物であることを象徴しています。


3. 音律が抱える課題を克服した結果、平均律にたどり着いた

先ほど、ピタゴラス音律の問題点を指摘しました。
一言でいうなら、「複旋律となったときに共鳴しない」ことです。

この問題は、単旋律が主流の時代は問題ではありませんでした。
しかし、複旋律が主流となる10世紀ごろには、問題が生じ、議論の的となります。

そこで、登場したのが「純正律」でした。
これは、ピタゴラス音律の3倍波に対し、5倍の周波数波(素数5)を重視して作られた音律です。
この音律によって演奏上の問題は克服されましたが、今度は変調(基準音をドから別の音に変えて、違った雰囲気で演奏をする技術)に問題をきたすようになりました。

このように、次々と浮かび上がる課題を克服していった結果、17世紀ごろの西洋に平均律と呼ばれる12音で閉じた音律が誕生します。
年代的には18世紀ごろにベートーヴェン、モーツァルト、シューベルトなどをはじめとする古典的傑作が花開くのですが、その前提条件を整えた音律といえるでしょう。

この平均律が現代まで続く音律の基準です。

この辺りはかなり深いので、詳しく理解したい方は専門書を一読ください。
私が参照した小方厚氏の「音律と音階の科学」は、それまで持っていた世界観が一変するほどの衝撃作でした。

「あらゆる現象は、数学で記述可能な方程式に支配される」

これは理系一般の世界観ですが、文系が肉薄するための入門書として、ほぼ最適だと思います。
かなり頭を使うので疲れますが、読後の知的レベル向上を保証します。