Ossan's Oblige "オッサンズ・オブリージュ"

文化とは次世代に向けた記録であり、愛の集積物である。

大谷選手やダルビッシュ選手の肉体改造に思う事

・大谷はダルビッシュ型ではない

ダルビッシュ選手の勧めで、大谷選手は肉体改造に取り組みました。
その結果、球速の伸びに及ぼした影響は大きいらしく、ダルビッシュ選手は最高球速を159キロまで伸ばし、
指導を受けた大谷選手も球速165キロを計測し、自身が持つ日本記録を更新しています。

ダルビッシュ投手は、肉体改造によって、「ストレートで三振を奪った割合」もトレーニング前の22%から39%に上昇するなど、「自分が求めていた」投球ができるようになったと語ります。
肉体改造によって理想の投球に近づいたのですから、ダルビッシュ選手が「筋力トレ必要論」も語るのも納得です。
若い大谷選手にトレー二ング方法を教えるのも、善意からくるアドバイスなのでしょう。

しかし私は、ダルビッシュ選手と大谷選手の立場の違いについて、もう少し注意が払われるべきだと考えます。


・二刀流での出場を通して大谷の疲労は限界のはず

大谷選手は、投手だけでなく、打者も兼任しています。
投手の場合と同様、野手としての実力も一流で、2016年には打率.322、本塁打22本、67打点という成績。
タイトル獲得こそならなかったものの、打者と投手でのベストナインの同時獲得という離れ技をやってのけました。
つまり、打者としてもチームに欠かせない戦力であり、それだけ出番を求められるのです。2016年の出塁率は.416と高く、もはや上位打線での起用が定着しています。
上位打線での起用は、下位打線での起用に比べて打席数が回って来やすく、また出塁することが求められるので、内野ゴロが転がれば全力ダッシュを要求されます。それだけ体への負荷は大きくなります。

投手でも野手でも、怪我なく1シーズン通して活躍するのは、至難の技です。
それにもかかわらず、投手と野手のダブルワークを体の未成熟な大谷選手に求めるのは、今は結果が出ていても、いずれ無理が出るでしょう。
そんな無理にも関わらず、周囲の期待を上回る貢献を果たす大谷選手は、まさに天才です。
しかし彼も人間。無理をすれば壊れます。
私たちは、大谷選手に無理を課していることに気づくべきだし、今は才能でカバーできても、これから20年近い彼の選手生命を通して同じ起用法が通用するとは考えない方が無難でしょう。


・体重が増えると身体への負担が増える

物質にかかる重力は質量に比例して増加します。そのため、体重を増やせば体にかかる負荷は大きくなります。
したがってウエイトトレーニングで体重増加を増やすと、怪我につながるリスクも増大します。

実際に、増量によって故障が増えた選手は少なくありません。
日本時代から大きな欠場のなかった松井秀喜選手は、大幅な体重増加(103kg→110kg)に踏み切った2004年の2年後から慢性的な怪我に苦しみ始めました。
怪我でメジャーでは満足にプレーできなかった和田毅投手は、渡米前にメジャー式の肉体改造を実践しています。
(https://www.nikkansports.com/baseball/news/p-bb-tp0-20101130-708315.html)
一時は18勝を記録した松坂投手も、体重を増やし始めた2010年頃から故障の傾向が見え始めます。


・体重変化の小さいイチローが見せる安定感

ちなみに、ダルビッシュ選手のウエイト必須論に真っ向から反対するのが、イチロー選手です。


イチロー選手といえば、メジャーリーグに移籍してから12年連続で150試合以上の出場を続け、渡米から10年連続で打率3割をクリアした一流選手。
30手前での渡米以降に500盗塁を積み重ねるなど、スピードも売りで、メジャー屈指のリードオフマンとして世界に名を轟かせました。
イチロー選手は、生まれ持った体のバランスを崩さない事を重視し、身体の肥大化を否定します。

そんなイチロー選手は、他の日本人メジャー選手と違って、日本時代から体型の変化はほとんどありません。
現在の体重は77~79kg前後、日本時代は71kg~だったようです。体重は増えていますが、体型は細身で一定です。
結果的に、イチロー選手は43歳に至る今日まで現役を継続しており、最近は年齢からくる衰えもありますが、体型の落ち着きに比例して安定的な数字を残してきました。


・大谷選手はどちらの方向に進むべきか

現状、メジャー式のウエイトトレーニングを巡る議論には、2つの考えがあると言えるでしょう。
1つ目は、ダルビッシュ選手に見られるポジティブタイプ。
これは、瞬発力を引き出せるようになり、球速や打撃での飛距離の伸びに効果が期待できるが、その代償に故障リスクが高まり、実際に故障が慢性化した選手の例も少なくない。
2つ目は、イチロー選手に見られるネガティブタイプ。これは、肉体改造と反対に身体の軽量化を進めるタイプで、瞬発力の増大は期待できないが、スピードと微小なコントロールの向上に効果が期待できる。怪我のリスクも抑える事ができる。


もちろん、どちらを選択するかは選手次第です。
ダルビッシュ投手は、豪球型のピッチャーを目指していたため、ウエイトトレーニングが必要だった。その代償かトミージョン手術を受けていますが、本人が納得しているのならそれで問題ないのでしょう。
一方、イチロー選手は、スピードと単打で安打数の最大化を狙うタイプ。長距離砲を目指さないプレースタイルに軽量化が適合したのです。
松井秀喜選手も、日本時代は100kg以下と、体型の割には軽量型でした。それでも日本では50本を打てていたのです。しかし、メジャーで31本しか打てないと分かると、長距離型のアイデンティティを維持するためか、高負荷トレーニングを始めたようです。

さて、大谷選手は、どちらの方向性を採用するべきなのでしょうか。
もちろん、大谷選手がどのタイプなのかは本人が一番わかっているはずです。
それを決めるのは私でもダルビッシュ選手でもなく、本人です。

しかしあえて私が決めるなら、イチロー選手タイプの軽量型を勧めたい。

たしかに大谷選手は投手としては速球に優れ、本人も球速アップに期待している向きがある。
でも、大谷選手は一流の変化球も持っているので、制球の良い158kmでも十分活躍できるでしょう。
それに二刀流で身体に高負荷は相当ですから、選手生命を保つには、負荷の削減が必須です。
ただでさえ負担の重い二刀流の選手が重量化を採用すれば、今は良くても、必ず後々ツケを払う事になります。
すでに、大谷選手は、2017年の4月8日の試合で左太ももの肉離れを起こし、全治4週間の診断を受けています。
幸い治療は順調に進み、2017年8月28日現在は既に復帰しています。しかし、重量化によって重くなった上半身が怪我に与えた影響は無視できないと思います。
再発を防ぐためにも、大谷選手の今後を見守っていかねばなりません。

もし、これからも二刀流を貫くのであれば、身体への負担を減らすことは前提です。
そもそも、一刀流でも1シーズンを怪我なく過ごすのは難しい。二刀流という史上初の試みであればなおさらです。
それなのに、投手起用だけのダルビッシュ選手と同じ方針のトレーニングを課すことには、違和感を感じずにいられません。
輝かしい彼の選手生命に傷すらつけかないのではないでしょうか?

ちなみに、大谷選手は選手生命をすり減らしてまで筋肉をつけなくても十分活躍が見込めます。
復帰後の7月26日に放った3号ホームランは場外に消えました。大谷選手は体格の大小に関係なく飛ばします。
パワーが落ちても技術だけで場外まで飛ばすことを示した一発でした。安打製造機の傾向にも変化はなく、むしろ細かな動きが活発になり「イチロー選手的」な巧打が光っているように私は見ています。

大谷選手は、肉体改造による補正なしでも十分に活躍が期待できます。