1 中国の発展は外資主導
2000年以降の中国の爆発的な経済発展は、外資に支えられたものでした。
日欧米の技術力を渇望する中国と、コストカットのための低廉労働者を求める多国籍企業の欲求が合致した結果、中国の「世界の工場化」が短期間のうちに進展したのでした。
巨大市場のポテンシャルが認知された瞬間、多国籍企業から投資が殺到し、沸き立つ生産需要に応えることで中国は技術と外貨の蓄積に成功します。
さらに外資流入の勢いが軌道に乗ったところで、ローンのバブル効果を発動。
これにより世界第二位のGDP、世界最大の自動車市場にまで上り詰めます
しかしながら、この状況をもって「China as No.1」と呼ぶにはふさわしくありません。
なぜなら、中国経済の土台は外資に支えられているからです。
内需の成熟が著しいとはいえ、GDPに占める割合を見ると、やはり外資比率が優位です。
2008年の時点で、中国の輸出に占める外資企業の割合は、55.4%と過半数を越える数値を占めていました。
2008年から10年が経過した現在においても、この割合は大きく変わっていないでしょう。
もし外資がこぞって流出すれば、輸出統計に大きな空洞ができ、中国経済は土台から崩れ落ちるでしょう。
シャドーバンクの問題性
お金を血液に例えることがあります。
人間の体を経済にたとえ、「身体中を巡るお金の流れが滞ると病気になる。お金を同じだから一ヶ所に留めずに使え。」といったことを主張したい人がよく使う表現です。
この主張になぞらえると、経済における「心臓」は通過発行を担う銀行です。
中国経済は、この「心臓」に慢性的な疾患を抱えています。
お金は順調に循環していても、心臓の造血細胞に異常を抱えているのです。
中国の通過発行は、日欧米のように公式の中央銀行だけが執り行っているのではありません。
非公式のシャドーバンクが政府の規制の外で暗躍しています。
シャドーバンキングとは、正規の銀行業から外れた出資母体によって営まれる金融業者を指します。
主に、ヘッジファンドや証券会社といった組織の設立した子会社が出資母体となり、利回りの大きさを担保にレバレッジ経済を動かしてきた中心母体です。
5~20%という破格の利回りが、中国バブルの原動力と呼ぶにふさわしい存在感を放っています。
しかしながら、非公式のファンドゆえ、正規の銀行業に対する厳しい審査も規制も適用されません。
ですから、仮に債務者が破産した時の対策も用意されておらず、場当たり的です。
さらに、融資に対して返済が行われる信用を証券化して再販売するなど、アメリカ金融危機の引き金となった過剰債務の焼き直しが横行しています。
無理な融資が破綻に陥ったところで政府からの扶助は望めません。
仮に取り付け騒ぎが起きた場合は、連鎖倒産は避けられず、GDP世界第2位まで掛け上った伸び幅と同じか、それ以上の急落が予測されます。
中国経済が崩壊した場合の影響は甚大であり、サブプライム級の混乱が世界経済を覆うことになることが予測されます。
さらに中国の社会融資の約半数が、このシャドーバンクを使った資金調達であることを認識するべきです。
つまり、心臓から排出される血液の半分が蝕まれているのであり、中国経済への極めて小さな刺激でもドミノ倒しが起こりかねない状況です。
つまり、当局は常に好況を演出しなければ経済を保てない状況にまで追い込まれているのです。
再度確認しますが、中国経済の核心は外資です。
外資の資本力が土台を支えているからこそ、苛烈なレバレッジ経済を奮起しても耐えてこれたのです。
しかし、外資という生命線が消えた時、中国経済はレバレッジ経済を支え抜く前提条件を失います。
いちど「中国はもうダメ」と世界的な認知が確率した瞬間、国内外から取り付け要求が殺到するでしょう。
つまり、外資の撤退は、シャドーバンキング問題を抱える中国経済を崩壊させる刺激として十分です。
このトリガーが引かれた時、中国経済は地獄のように下り坂を転げ落ちていくことになるでしょう。
2 「中国市場から製造業を呼び戻そうとする」トランプ大統領の狙い
トランプ大統領といえばポピュラリズムで選挙戦を勝ち抜いた無能な右系政治家だとする声が強いですが、その対中政策は至極真っ当です。
アメリカの行き詰まりの原因は、日本と同じです。
つまり、後進国への生産移転が進んだことにより、アメリカから雇用が失われたのです。
トランプ大統領は、中国をはじめとする諸外国からアメリカ企業を呼び戻そうとしています。
世界へ離散した大企業の国内回帰によって、アメリカ国内に雇用を取り戻そうとしているのです。
これがトランプ大統領の主張する自国民救済策です。
そこで早速、2017年9月27日に法人税減税(35%から20%)に踏み切りました。
法人税の減額は、利益を税金を目減りできるので、内需市場の旺盛さも備えるアメリカへの国内回帰の流れが生まれます。
これはもちろん、世界に散らばったアメリカ企業を呼び戻すだけでなく、世界中の大企業をアメリカへ誘致する狙いが込められています。
アメリカの新しい法人税率20%に対し、中国の法人税率は25%です。
税率5%の差は、数億千規模の利益に対して莫大なコスト差となり、移転の動機になり得ます。
国家のイデオロギー的にも、中央当局の規制が強い中国よりも、民主主義と資本主義に根ざすアメリカが好まれるのは自明です。
さらに、中国は先端技術の漏洩リスクもあります。
これまで中国に進出した外資系企業は、市場の果実を得る代償として、先端技術の供与に耐えてきました。
数億~数兆円の予算をかけて編み出した技術をタダ同然で引き渡していたのです。
それでも中国市場に残り続ける理由は、旺盛な現地の消費市場の魅力に他なりません。
しかし、外資企業の米国移転によって中国の消費市場が落ち込めば、製造業が中国に居続ける唯一の理由が無くなります。
進出当初は安かった人件費も、すでにインフレを遂げてしまいました。
この製造業は、中国人に最大の雇用を生んできた母体であり、その喪失は中国のGDPを確実に毀損します。
つまり、外資系製造業の一斉撤退が起きたとき、ドミノ倒しにシャドーバンキング崩壊の引き金が引かれ、中国経済の崩壊が現実のものとなるのです。
3 中国市場からの撤退は、アメリカ経済にも大打撃
中国経済の繁栄に終止符を打とうとするトランプ大統領。
しかし、中国経済の死はアメリカの多国籍企業にも打撃を与えます。
なにせ、アメリカは輸出の7.97%、輸出の21.4%を中国に依存しており、これを崩すことで立ち行かなくなるアメリカ企業も少なくないはずです。
特に中国の自動車市場は、世界最大規模に成長しており、アメリカのメーカーにとっても富の大きな柱となっています。
現地に進出済みの、ゼネラルモーターズ、フォード、フィアット・クライスラー、シボレーなどの米国自動車メーカーは、中国での人気も高く、売り上げに欠かせない市場となっています。
それでも、トランプ大統領が本気であることは、閣僚の顔ぶれを見れば一目で分かります。
「通商製造業政策局」委員長には、反中過激派で知られ『中国による死(Death by China)』という著書も著しているピーター・ナバロ氏が抜擢されています。
予想通り、製造業の政策担当です。
ピーターナバロ氏以外の人事も反中派で占められており、強攻策を実施する構えを見せています。
4 これから中国に起こることは、80~'00年代の日本の焼き直しか?
日本と中国は、先進国企業の生産移転先としての立場を発展の土台とした点で共通しています。
日本の方が先輩な分、これに続く中国も日本の二の舞をたどることになるのでしょうか?
日本の経済支配が完成していったプロセス
第二次世界大戦の敗北の結果、戦後日本の内政は、アメリカ追従を余儀なくされてきました。もちろん、アメリカの傘の下に入ることは、経済的にも国民生活的にも利益の大きなものであったことは間違いありません。
しかし、高度経済成長からバブル期、そして21世紀の構造改革まで、アメリカの外圧に屈し、いつのまにか自治性を放棄してしまったことも戦後日本の1つの姿です。
60年代から欧米からの技術導入の下、高度経済期が始まると、「世界の工場」として世界市場へ日本製品の供給を担うようになり、米国との距離を縮めます。
日本の追い上げはアメリカの対日貿易赤字として表れ、1985年には500億ドルを突破。
「バランス・オブ・パワー」の伝統を持つ欧米先進国は、「自由貿易の中立化」を理由にドル安誘導を強行。プラザ合意が結ばれます。
これにより円高に直面した日本は、更なる貿易の進展を阻まれ、戦後以降の輸出志向の経済発展モデルに終止符が打たれます。
さらに、通貨高により国外に向かわなくなった資本が国内にはけ口を求め、土地投機が過熱。バブル経済を醸成します。
91年には大蔵省の規制により崩壊期に突入するも、投機によって膨張したマネーは、日本経済から失われることなく、その後の投資ブームを支えていく土台となります。
しかし、その後、国内に分散した資本を株式市場へ集約していく途上、2001年に現れた小泉政権の下、金融の外資規制が緩和。
その後2003年に訪れた日経平均株価の7,000円代暴落によって、暴落した日本株を外資系ファンドに一斉取得される事態に陥ります。
この時点を以って日本株の主要なプレーヤーは外国人に移り、経済の主導権を明け渡す格好となりました。
事実、今日の日本株の売買は、その6割以上が外国人による取引です。
こうした動きの中で、日本はほぼ一貫してアメリカの主張に譲歩を重ねました。
もちろん、敗戦と戦後の国家再建におけるアメリカの貢献を評価してのものと思われます。
中国は日本と性格が異なる
一方、中国は日本と異なる性格を持った国です。
確かに欧米植民地に下った歴史はあるものの、相手はアメリカではなくイギリスでした。
冷戦終結後の発展は、アメリカの多国籍企業の進出に裏打ちされた経済成長でした。
中国が抱える安い労働力を背景とした生産拠点の移転をベースとしたため、日本のときと同様に、アメリカの対中貿易赤字が膨らむことになります。
それが近年起きている米中貿易摩擦の原因ですが、日米貿易摩擦とは若干の違いが認められます。
中国は、アメリカの安全保障の傘下に入っていない
アメリカの要請に対して中国側に拒否・報復の行使が行われている
中国はまだ、アメリカに対する敗戦を経験していないからです。
それでも中国経済は米国中枢人の手に落ちる
日本経済の主導権が剥奪された瞬間は、ひとえに株式の外資取得が契機でした。
それが行われたのは、投資の外資規制が実践された小泉政権の下です。
つまり、株式所有権の放棄は、国家主権の譲渡にも等しいのです。
政治手腕に長けた中国の重鎮は、これまで外国人の投資活動を規制によって縛ることで、国内経済の主導権を保ってきました。
これは、1997年にアジア通貨危機が起きたときに中国への打撃を微小に留めることのできた主要な要因の1つとなります。
ところが昨今、中国の外資規制に撤廃の動きがあります。
2017年11月には、日中首脳会談の結果、中国の習近平国家主席は、金融分野における外資規制の緩和に合意しています。
2020年以降に証券部門、22年以降に生命保険分野で、中国国内における外資100%出資の現地法人を設立できるようになるのです。
この措置によって、外資100%の金融法人の設立が可能となります。
外資系資本の銀行業務が行われるようになるなら、投資部門の外資規制緩和がなし崩し的に続くことになるでしょう。
繰り返しますが、国家の主導権は、暴落した企業債権を外資系ファンドに取得された時点で失われます。
つまり、前言のシャドーバンキングのリスクとトランプ政権による外資撤退の動きに十分な予兆を読み取ることができるのです。
またアメリカと中国の間に軋轢が生じた場合、中国を武力制圧することは、アメリカにとっても軍需企業の活性化に繋がり、合理的な判断となります。(ただし、軍事支出の増大を嫌ってアメリカ軍の投入は避けてくると思う。)
いずれにせよ、結果として起こる中国株の暴落は、欧米系ファンドたちに中国株の一斉取得に絶好の機会を与えることになるでしょう。
それが実現したときが、中国の終わりです。