米中対立が激化した2019年8月頃から金価格が上昇トレンドに転じています。
5,800円台を突破した価格が予兆的なものに過ぎず、今後さらなる高騰に向かう理由を解説します。
(2020年1月、米軍によるイラン要人暗殺事件を受け、金価格は1g=6,000円を突破。まだまだいきます。)
第1章 : 量的金融緩和政策によるインフレ効果は、どの程度の規模だったか?
量的金融緩和政策の目的が、本当にデフレ脱却であるかは怪しいです。
とはいえ2008年以降の量的金融緩和政策によって、世界のマネタリーベースが膨張したことは間違いありません。
お金の存在量が膨張したのですから、紙幣の裏付けとなる金価格の高騰が予測されます。
本章では、各国の量的金融緩和によって増えたマネタリーベースの量について調査します。
FRB(アメリカの中央銀行)
量的金融緩和の先鞭をつけたのは、金融危機の震源地である米国でした。
リーマン・ブラザーズの経営破綻から2ヶ月後の2008年11月に量的金融緩和を開始。
2014年10月までの約6年間で、合計3次の量的金融緩和を実施します。(合計2兆7250億ドル)
(Federal Reservee Bank内のグラフを編集)
- QE1(2008年11月~2010年6月 : 1兆7,250億ドル)
- QE2(2010年11月~2011年6月 : 6,000億ドル)
- QE3(2012年9月~2014年10月 : 4,000億ドル)
- 計(2008年11月〜2014年10月 : 2兆7,250億ドル)
2014年10月以降の追加緩和は実施されておりません。
量的金融緩和が行われた6年間におけるマネタリーベースの伸びは、約1兆5,050億ドル→約3兆3,828億ドル。
約2.25倍に膨張しています。
増加分は、推定+203兆5,489億円。
日本銀行
日銀の量的金融緩和政策の開始は2013年4月。
アメリカの量的金融緩和政策が6年間で終息したのに対し、2020年1月時点で出口が見えない状況です。
日銀の量的金融政策は、消費者物価指数の年間+2%を目標にスタート。
当初掲げられた終了の目処は、「マネタリーベースの2倍化」。
マネタリーベースを2013年時点の135兆円から2倍(270兆円)に増やせば「物価も連動上昇するだろう」という期待です。
その期待は、見事に裏切られます。
消費者物価指数の2%増を達成できたのは、翌年の消費税増税を睨んでの「買い急ぎ需要」が起きた2014年だけ。
残りの6カ年の消費者物価指数の伸びは、全て+1%を下回っています。
マネタリーベースは517兆2,843億円と2013年から約3.8倍に膨張。(2019年11月末時点 政府統計より)
(普通に考えれば、国際金融の時代にいくらお金を刷ったところで有望国に流れ国内に留まらないのですが、)日銀は、今後も消費者物価指数+2%の目標値を達成するまで、買い入れを継続すると表明しています。(国債 : 年間80兆円、ETF債 : 年間6兆円、J-REIT : 年間600億円)
日銀の総資産は569兆円を突破し、東証一部に上場する株式の4%を日銀が保有する状態となっています。
2013年4月から2019年11月までのマネタリーベースの伸び幅は、推定+382兆2,843億円。
未曾有の量的緩和へと突き進む日本経済の今後を、世界が固唾を飲んで見守っています。
欧州中央銀行(ECB)
欧州中央銀行(ECB)による量的金融緩和政策の開始は2015年3月。
2018年12月に一旦打ち切った後、2019年11月から再開。(年間2,400億ユーロ=約28.8兆円ペース)
(ECB発表のデータを編集)
量的金融緩和の開始(2015年3月)以降のマネタリーベースの増加分は、推定+231兆1,543億円。(2019年12月時点)
イングランド銀行
(Federal Reserve Bankのデータを編集)
イングランド銀行は、2008年の金融危機の直後から国債の買いオペを実施。
グラフの右端は2017年で止まっていますが、2020年の現在においても尚、量的金融緩和を継続しているとのこと。
しかしながら、その規模は他の国々と比べて高くありません。
ロイターの記者デビッド・ミリケン氏は、2019年7月17日の記事の中で「イングランド銀行による国債買い入れの総量は6,000億ポンド(約86兆円)以上」と述べています。
2020年時点のマネタリーベースは、イングランド銀行内の統計データが雲に包むような発表の仕方なので、正確には掴めませんでした。
そこでここでは、2019年7月時点のマネタリーベースを「長期国債の発行残高÷0.91」の計算式から推定します。
(根拠 : 日銀による長期国債の発行残高 : マネタリーベース比率(2019) = 471.9439兆円 : 518.2425兆円 → およそ100 : 91)
イングランド銀行による国債購入額6,000億ポンド÷0.91 = 6,593億ポンド(約94兆2,628億円)
この数値から2009年2月時点のマネタリーベース推定13兆1,654億円を差し引きます。
期間中の伸び幅は、推定+81兆974億円。
スウェーデン中央銀行
スウェーデンにおいても、量的金融緩和の規模は大きくありません。
(CEIC DATA提供のグラフを編集)
日本のメディアでは、スウェーデンの量的金融緩和の開始は2015年2月とされています。
しかし実際には、世界金融危機の直後からスウェーデン国立銀行(リクスバンク)による国債買い入れが実施されています。
しかしながら「世界最古の中央銀行」のためか量的金融緩和には保守的で、慎重姿勢を崩しません。
金融危機の脅威が去った2010年には「買い入れた国債の売却」を実行することでマネタリーベースの縮小を実施。
さらに、2015年以降の量的金融緩和も、最大の年で推定1兆3,500億円程度(2015年)に過ぎず、年間に80兆円を増刷する日銀などに比べると緩やかです。
2017年以降のスウェーデンのマネタリーベースは記されていないものの、その後の買い入れ量を考慮しても約7,500億円程度です。
これを2017年のマネタリーベース(約9,850億円)に加えると、推定1兆7,350億円。
2007年のマネタリーベース(約1兆3,213億円)から差し引いて求められる伸び幅は、推定+4,137億円。
先進国の量的金融緩和で増えたお金の量まとめ
各国を量的金融緩和の規模の大きさ順に並べます。
- 日本 → 推定+382兆2,843億円(2013年〜2019年11月30日)
- EU → 推定+231兆1,543億円(2015年〜2019年12月)
- アメリカ → 推定+203兆5,489億円(2008年〜2019年12月18日)
- イギリス → 推定+81兆974億円(2009年2月〜2019年末)
- スウェーデン → 推定+4,137億円(2007年〜2019年末)
合計 898兆4,986億円
当然、単純な数値比較は意味を持ちません。
測定の期間がバラバラだからです。
しかしながら、 合計900兆円に迫るお金が、金融危機を契機に、創造された事実は見逃せません。
これは、約8兆ドル(約880兆円)とされる金の時価総額を凌ぐ規模です。
第2章 : 金価格はどれくらい伸びた?
(※Gold Price掲載のグラフを編集)
グラフでは、金融危機の直前(2008年1月)を基準に、金価格の上昇率を検証しました。
その結果、2020年との比較では約1.71倍、市場最高値をつけた2011年9月との比較では2.05倍という数値が観測されました。
世界金融危機を受けて株式市場を離れた資本が金価格を過熱させた後、一旦弾けて2016年ごろから米中対立の過熱化を懸念して再び上昇に転じ始めた格好です。
金価格が市場最高値をつけたのは2011年9月です。
この年は、日本銀行や欧州中央銀行の量的金融緩和政策がまだ始動していない年でした。
最高値をつけた2011年以降に行われた紙幣の大規模発行を考慮すれば、金価格の伸びは90%の確率で確実でしょう。
注意点 : マネタリーベースとマネーサプライは違う
もちろん、中央銀行が発行したお金の100%が市場へ供給されるわけではありません。
「紙幣の発行量」と「市中への供給量」の違いを表す概念が「マネタリーベース」と「マネーサプライ」です。
○ 「マネーサプライ」 → 実際に市中に出回るお金の総量
マネーサプライの量は、民間の貸し出しに左右されます。
企業や個人による融資の度に仮想的なお金が創造され(信用創造)市中へ出回るのです。
したがって、マネタリーベースの上昇率とマネーサプライの上昇率は比例しません。
いくらマネタリーベースを増やしても、民間の融資が停滞すれば、マネーサプライも伸び止まるからです。
実際、2012年〜2014年にかけて、マネタリーベースの伸び率は+約2.1倍でしたが、マネーサプライの伸び率は+約0.07%に留まっています。
このように、両者の間には、常に「マネタリーベース > マネーサプライ」の関係が成り立ちます。
もしも過剰融資によってマネーサプライの過剰が起これば、日銀によるマネタリーベースの引き締めによって制御されます。
「マネタリーベースが伸びた→金価格が上がる」は短絡的
上記の通り、量的金融緩和政策によって増加したマネタリーベースの全てが市中に開放されるわけではありません。
とはいえ、「民間銀行への資金供給」「ETF債の購入」といった中央銀行の市場介入は、金融資産の上昇を促します。
(金融資産の価格はあくまで評価額なので、マネタリーベースやマネーサプライの枠外として扱われます。)
中央銀行の介入が株高を牽引する中、株高を促す条件が失われると同時に、投機の著しい株式市場から資金流出が起こることは間違いありません。
その時に、真っ先に受け皿の役目を務めるのが「金」です。
その理由は↓に説明しました。
金価格の伸びを停滞させる要因 : 仮想通貨(ビットコイン)
金価格の予測に、従来の理論は通用しません。
世界的な不安の高まりは金価格の上昇に直結しましたが、今日では「デジタルゴールド」の存在によって分散されています。
この「デジタルゴールド」なる概念は、経済取引の舞台が現実を離れてインターネットに移行する中で創出された仮想通貨BTC(ビットコイン)に由来します。
現実世界における金をインターネット世界で再現した資産であり、仮想通貨を象徴する価値です。
つまり、株式市場から不安心理で流出したお金の受け皿が「金一極」から「金orビットコイン(ofその他現物)」へと多極化しているのが現状です。
しかしながら、仮想通貨市場の時価総額は推計30兆円規模に過ぎず、2017年の全盛期でも60兆円規模です。
金市場の時価総額880兆円に対して1/20以下の規模に留まり、現状において、金価格の伸びを大きく阻害する可能性は低いでしょう。
第3章 : 量的金融緩和の影響が金価格に波及するタイミングはいつ?
いつの時代も経済の先行きに暗雲が立ち込めると、マネーは株式市場から撤退し、金市場を活気づけてきました。
その時価総額は880兆円に上り、仮想通貨市場(時価総額30〜60兆円規模)の出現を以ってしても、上昇を食い止めることは不可能でしょう。
特に、各国中銀による量的金融緩和は見逃せず、約12年間で創出された紙幣の合計は898兆4,986億円に上ります。
このマネタリーベースの全てが市中へ出回ることはないですが、中銀による金融市場への直接介入が実施される以上、金市場の上昇も堅牢でしょう。
現状の金市場は、米中対立の煽りを受けて2016年頃に底打ちを完了させ、これに米軍によるイラン要人暗殺事件を契機とする中東問題の過熱が重なって、2020年から再び上昇の姿勢を整えつつあります。
量的金融緩和が本格化する前の2011年につけた最高値1g=60.96ドル(6,712円)を突破する可能性は高く、2011年後以降の量的金融緩和の影響を踏まえれば、さらに値を飛ばす期待感が持てます。
たこひろの予測 : 金爆上げ→徐々にBTC高騰
量的金融緩和の最中に金価格が伸び悩んだのは、「金が利息を生まないから」です。
金自体は利息を生まないので、投資家は長期保有の戦略で臨みません。
その性格は今後も変わりなく、価格の上昇がひと段落すると、すぐに次なる資産へと移動していくでしょう。
その受け口の有力候補が仮想通貨です。
「仮想通貨市場の時価総額が現状の30兆円のまま終わる」という事態はまずあり得ないので、技術的な問題を修正しながら伸びていく可能性が高いでしょう。
現状は技術的な問題を抱える以上(草コインの林立など)、代表格はBTC(ビットコイン)です。
仮想通貨は乱高下を繰り返す局面にいるので、低値の局面に遭遇したら、購入を検討しても良いでしょう。
- 金価格は2011年につけた史上最高額6,712円を突破する
- 金価格は上昇の後、乱高下を繰り返し、徐々に仮想通貨市場へと移動する