Ossan's Oblige "オッサンズ・オブリージュ"

文化とは次世代に向けた記録であり、愛の集積物である。

残念ながら暗記には意味がない【教養を身につけたい人、必読】

「教養」は、暗記知識のことを指さない。
品位、人格、理解力、創造力を高めてくれるような、幅広い造詣のことを指す。
単発知識は教養ではないのである。

多くの人が「教養を身に付けたい」と考えるのは、以下のようなメリットがあるため。

  • 社会を先読みする洞察力が身につく
  • ニュースや新聞の情報に対する理解力が高まる
  • 立ち振る舞いに教養が表れ、社会ステージの高い人たちと交際できるようになる

多くの人が「教養を身につけたい」と考えるのと裏腹に、教養は日本人にとって鬼門である。

なぜなら、学問に暗記で対処する悪癖が定着しているから。
それも、義務教育からの長期の刷り込みであるため、根が深い。
暗記という誤った方法で教養を身につけようとして、時間を浪費する人は珍しくない。

自分も、多読で教養を身につける努力を図ったが、進捗は効率の良いものではなかった。

しかし改善したこと、学んだことは確実にあるので、記憶のメカニズムに立脚しながら正しい教養の身につけ方を解説したいと思う。
本記事で、日本の暗記主義に終止符を打てるなら幸いだ。それくらいの気持ちでいる。

ちなみに筆者の教養はどの程度かというと、(教養のありそうな)西洋人とすれ違うときに、「おっ」という視線で見てもらえ、外国の歴史博物館に行くとたまに外国人が展示品について話しかけてくるレベル。

教養をかじって分かったことは、教養は確実に人生の幅を広めてくれるということ。
当然、教養を効率的に習得できる人は、テストの暗記をやらせても上手だと思う。
禁止事項も解説するので、教養の身に付け方について聞いてほしい。


第1章 : 「記憶」という概念の整理【教養の定着にはエピソード記憶が必要】


暗記は、人間がやる記憶の中で最も短命な部類である。

教養に関わる記憶の分類【経験で身につけた知識が最強】

代表的な記憶の2区分。
それは「短期記憶」と「長期記憶」。

記憶の持続時間○「短期記憶」・・数秒
○「長期記憶」・・数分から一生
(参考 : 脳科学辞典

ネットには、「丸暗記」を「短期記憶」に含めるものが散見される。
「短期記憶はダメ!!」という論調である。日常会話でも感覚的に短期記憶を使いがちではないだろうか?

しかし上記の定義と照らし合わせるなら、この用法は完全に誤りである。
学校の授業で学んだ知識、また参考書から切り取った情報などが、数秒で消えてしまう人はいないだろう。
持続時間が数分〜続く記憶は、「長期記憶」に該当するのである。

人間が日常的に行う記憶の大半は、その記憶が1日で消えようと、長期記憶に該当することに気をつけたい。

さらに、この長期記憶は2種類に細分化できる。

長期記憶の2区分○ 陳述記憶(意味記憶、エピソード記憶)
○非陳述記憶 (手続き記憶、プライミング)


2つを分ける基準は、「記憶の記述・想起に言語・イメージが使われるか?」。

記憶の想起に言葉やイメージが用いられる場合は「陳述記憶」、非言語のまま進行する場合は「非陳述記憶」。

前者の特徴は、言語を介する点。具体的には、先生から教わる知識や技術の習得など。
後者の特徴は、言語を介さない点。具体的には、パズルや謎解きなど、繰り返すことで身に付くパターン記憶など。

後者は、言葉を使わない記憶なので、教養(知識や概念)とは直接関係がない。
したがって、ここでは無視することにする。

教養と関係が深い「陳述記憶」は、さらに「意味記憶」と「エピソード記憶」に細分化できる。

分かれすぎて大変だと思うが、裏返すとそれだけ人間の記憶は奥深いのである。
ここを理解するのとしないのとで、人生のパフォーマンスが大きく変わってくるだろう。


長期記憶の分類○「意味記憶」 → 知識・概念・ルールの内容に関する記憶
○「エピソード記憶」 → 個人の経験に基づく記憶。空間、時間、身体感覚などの付随情報を含む


「意味記憶」は、一般的な知識(ルール、概念など)に関わる記憶を指す。
(例 : 日本の都道府県の数は47、野球は3アウトでイニングを交代する)


「エピソード記憶」は、個人の経験に基づく、一般化できない属人的な記憶のことを指す。
(例 : 2015年にインドのマイソールで南京虫に襲われた)


暗記知識は、持続しない。
これは「意味記憶」の持続力が弱いことを端的に表している。

つまり、エピソード記憶(経験を通して得た知識)は、持続力が強いのである。
その理由は、感覚刺激を伴うため。記憶の入力・出力ともに大脳以外の領域が関わるので、複数の感覚が記憶に符号化される。

複数の脳領域が同時に関わるため、「連合」と呼ばれる脳回路のネットワークが形成される。
そのぶん、出力時は、幅広い脳領域が同時に発火し、それだけトリガー(想起)の引かれやすい記憶として脳に保管(記憶)されるのである。

一方、「意味記憶」は、孤立し、脳にとっての重要性を測る情動とも関連がない。
したがって、脳に「不要な情報」と見なされる可能性が高く、睡眠時の記憶調整でふるい落とされ易い。
記憶調整で「不要」認定を受けたシナプスは、「刈り込み」と呼ばれる抑制系の神経伝達物質の働きで消滅する。忘れてしまうのである。


日常を振り返っても、「暗記力」の高い人々は多くいたはずだ。
例えば、受験戦争の勝ち組。彼らは、記憶を長時間、持続するコツを身につけている人。

要するに、エピソード記憶の使い手なので、記憶に情動を結びつけている可能性が高い。
おそらく学問を積むことに目的意識なり、充実性を認めているのだと思う。

知識が情動と結びつけば、エピソード記憶として長時間残りやすいし、行動的にも知識の探求に積極性が出る。

例えば、野球のルールとして「3アウトで1イニングを交代」という知識を学んだ時、これをエピソード記憶に変換できる人は、実際に野球をプレイする。

野球をプレイして皆んなが「3アウトで1イニングを交代」している様子を見ながら、自分も同じ行動を真似ることで、様々な感覚情報を符合するのである。
さらに楽しいなり悔しいという情動が重なれば、エピソード記憶は形成したようなもの。

新しく知った知識(ルール)は、野球をプレイするまでは無味乾燥な「意味記憶」にすぎない。
しかし、実際にプレーをして覚えることで、脳の広い領域が発火する「連合」としてエピソード記憶化できるのである。


暗記も教養も同じ。エピソード記憶の活用は必須

暗記も教養も、持続時間が数秒〜かつ言葉を用いるため、同じ「陳述記憶」である。

とはいえ、両者の間には明確な持続時間の差がある。
これは先述の通り、「意味記憶」と「エピソード記憶」のどちらとして記憶するかの違いに過ぎない。

例えば、暗記知識は、たいていの人がすぐに忘れてしまう。
しかし、主体的なモチベーションを持っていたり、体験の中で記憶した人は、暗記知識がエピソード記憶化し、長期保存してしまうことも珍しくないのである。


第2章 : 「教養が身に付く!」といった触れ込みの本は、時間の無駄【暗記が働くから】


世には出回る「教養本」は選別が必須

本屋に行くと、「教養本」と銘打たれた本がたくさん棚に並んでいる。

この類に効果は期待しない方がいい。

一部の笑える本。
例えば、「阿刀田高」の著書のような例外をのぞいて、無味乾燥な「知識」の枠で終わってしまうからだ。

それは暗記と呼んだ方が正確で、「意味記憶」の範疇なので寝たら大半を忘れてしまう。


学習の動機が「教養を身に付ける」だと、暗記が発動する

日本人が何かを知ろうとすると、高確率で暗記が働いてしまう。
暗記は、教育の過程で刷り込まれた方法だからである。

これを崩さない限り、教養は得られないものと思った方がいい。(暗記も)

とはいえ、やることは簡単。

エピソード記憶の「連合」の枠組みを用いるだけ。

言い換えるなら、学習の仕方を「楽しい」ものに変えてしまえば、身体化した知識「教養」を積むことは容易である。


第3章 : 「感情」から入った知識は、結果的にエピソード記憶に残る【「楽しい」が無難】

エピソード記憶には、感情の介在が欠かせない。
言い換えるなら、感情を伴う「連合」を作ることができれば、記憶を出力する際の「トリガー」は格段に引かれやすくなるのである。

したがって、本を読むだけ、知識を繰り返しなぞるだけ、というやり方は×。
そこに面白さが伴わないと、外的な賞罰や死活問題でも課されない限り(これは恐怖感情)、意味記憶として最終的に健忘するのがオチ。

だから、記憶自体を楽しむために、身につけるべき知識には記憶する「意味」を伴わせたい。
そして「経験」もすべきである。

そうすれば、エピソード記憶(連合)を作ることは難しくないはずだ。


外国に関する教養を身に付けたいなら、その国に行く

外国旅行中に勉強すれば分かるが、とにかく知識がよく頭に入る。
外国の歴史、建造物の背景になど、観光地を訪れた際に学習の機会は多い。
そして、旅行から帰ってもよく覚えているのである。

これは、知識に非日常の中で経験する新鮮な感覚を符号化できるから。
つまり、外国旅行というエピソードの中に、知識を組み込めるのである。

旅行に限らず、新鮮な体験をした際は記憶のチャンスである。


友達との会話に混ぜるでもOK

親しすぎる相手だと新鮮さに欠ける。
ただし、友達との会話に知識を織り交ぜる。

それだけでも、エピソード記憶を形成する機会にはなると思う。
友人との会話には情動が生じるので、エピソード記憶が形成されやすい条件は整っているのだ。

特に、外国人が相手だと体験そのものが新鮮なので、会話の内容はエピソード記憶と化しやすい。
そこに、知識を散りばめればいいのだ。

ただし、多くの人は外国人と接触する機会を持たないと思う。
そういう人たちは、オンラインで接触を持てばいい。(ただし、オフラインの方が嗅覚、触覚など感覚がより鋭敏に働くので有利)

例えば、英会話カフェLanCul
では外国人とオンラインのチャットで会話ができる。

英語での会話なので語学力も身につく上、経験そのものが新鮮なので、覚えたい知識のエピソード記憶化はほぼ確実だろう。おそらく一石四鳥くらいの副産物を期待できる。

無料体験枠も利用可能。一度経験すれば効果のほどを実感できるはずだ。