Ossan's Oblige "オッサンズ・オブリージュ"

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【知られざる古典】中根千枝の「タテ社会の人間関係」が参考になる理由【日本社会のソースコード的論文】

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問題解決の初めにすべきことは、「何が問題か」知ることです。

ストレス多き日本社会で苦しむ人は少なくありません。

  • 部下の意見=反抗
  • 暗黙に決まる上下関係
  • 違和感満載の擬似家族関係

こうした日本社会の癖にストレスを感じる人は、一度「日本社会とは何か」について、スポットライトを当て直してみてはいかがですか?

その切り口で日本社会を洞察した優れた著書 を発見したので紹介させていただきますね。

「タテ社会の人間関係 単一社会の理論(中根千枝著)」

社会構造の説明に用いる「縦社会、横社会」という言葉が本書の造語であることはあまり知られません。
1967年と時代は古いながらも、時代、空間を超えて、あらゆる日本人社会に働く力学を浮き彫りにしています。

私たちは、ネットの掲示板に日本論を探しがちです。目的は精神安定を得ること。
しかしネットは素人の集まりなので、革命的な知見は得られません。
それに比べると、東大卒の見識に貫かれた本書は明らかに上位互換
ネットに求める精神安定の効果も倍増することは間違いありません。

だいたいこんなことが書かれています。

  • 日本人が論理よりも感情を好む理由
  • 同調圧力の正体とは
  • 海外で見知らぬ日本人同士が互いに攻撃し始める謎現象の正体
  • 「集団主義」の日本人が、なぜ外国で協力できないか
  • 日本人と外国人の決定的な違いとは
  • 中国人、インド人、西洋人にとっての「身内」の違い


第1章 : 中根千枝氏とは?【東大卒】

中根千枝さんは、1926年生まれの社会人類学者です。

12歳まで日本の学校に通った後、両親とともに中国へ渡り、6年間現地の学校に通います。

その後日本へ帰国し、21歳の時に東京大学文学部東洋史学科へ入学。

東京大学大学院を修了した後は、インド、イギリス、イタリアへと留学し、さらにシカゴ、ロンドンで客員教授として勤務。

帰国後、月刊誌『中央公論』から論文執筆の注文を受けて2週間という短期間で書き上げた論文が反響を呼び、出版社から書籍化の依頼が殺到。

そして1967年、中根千枝氏が41才の時に、上論文を加筆・修正して上梓されたのが「タテ社会の人間関係 単一社会の理論」でした。

本書では、著者の長年に渡る海外での実地調査(チベット、インド、中国、イタリア、イギリス、アメリカなど)を通した社会構造の比較から、日本社会の特異性が浮き彫りにされます。

それまで欧米との比較でしか論じられなかった日本文化論を多様な文化体験に基づいて捉え直し、新たな輪郭を与えた功績が認められ、2001年には文化勲章も受章しています。

「タテ社会の人間関係 単一社会の理論」の英語版は世界13カ国で読まれ、2015年の時点で124刷116万部超のロングセラーと化しています。


第2章 : 「タテ社会の人間関係」の中身を少しだけ紹介

本書の内容を少しだけ紹介します。


その証拠に、日本人の会話には、スタイルとして弁証法的発展がない。「ほめる書評」と「けなす書評」しかないように、「ごもっともで」というお説頂戴式の、いっぽう通行のものか、反対のための反対式の、平行線をたどり、ぐるぐるまわりして、結局はじめと同じところにいるという、いずれかの場合が圧倒的に多い。

深夜に行われる某討論番組に高頻度で起こる現象ですね。

1967年の著書というと「古い」「時代背景が違うので役に立たない」といった反論が起こりがちですが、日本の「大きな組織」を牛耳っているのはこの世代の人たちです。

伝統文化の構造や、会社組織の意思決定に携わるのもこのタイプです。

その裏にある精神構造について理解して損することはないでしょう。

また、時代が過ぎた現代においても、本書に登場する日本人の行動は既視感があります。


例えば次の一文。


私たちが自分の意見を発表するとき、対人関係、特に相手に与える感情的影響を考慮にいれないで発言することは、なかなか難しい。
日本社会におけるほど、極端に論理が無視され、感情が横行している日常生活はないように思われる。


本書の洞察の深さは、著者の幅広い異文化体験に裏付けられています。

本書では、インド人のカースト制、中国人の血縁意識、西洋人の契約主義といった諸外国の風習が「場」と「資格」という2つの基準から分析され、同じ枠組みの中に日本文化も位置付けられます。

そこで浮き彫りになった日本特有の秩序感覚が「タテ」関係であり、根底に流れる極度にエモーショナルな感情主義なのです。

本書で予見された問題点は、実際に現代に少なからず実現しており、日本に対する知見を深めれば日本の今後が見えてくるかもしれません。


第3章 : 「タテ社会の人間関係」を読むメリットとは


「縦社会」「横社会」の誤用がなくなる

「縦社会」「横社会」という言葉は、社会内部の人間関係のあり方を説明する際に使用されがちです。
「縦関係は上下関係」、「横関係は仲間関係」といった具体にです。

しかし「原典」にあたる本書からすると、ネットに氾濫する「縦」、「横」は恣意的な誤用です。

感覚で決まりがちな「縦社会」、「横社会」の概念を正しく理解し直すだけでも、日本文化に対する知見が深まるでしょう。


日本社会で起こる関係性を俯瞰できるようになる

私たちは、日常に様々なストレスを強いられます。

  • 集団の派閥闘争
  • 同調圧力
  • 個の排斥

多くの人はその正体を知らないために、身体面に影響が出るほどの大きなストレスを抱えてしまいます。

抜け毛、肌の劣化、老けて見える、など。

大抵の原因は、ストレスが制御不能なことだと思います。
でも、ストレスは原因さえ理解できれば大部分を軽減できます。

その意味でも、日本社会の力学を説いた本書は、先人の叡智が詰まった必読の「古典」と言えるでしょう。
「古典」を読めば、先人が到達した地点からスタートできます。
全部自分でこなす必要はありません。

本書を読めば日本社会を俯瞰する力が身につきます。
日常の人間関係に生じるトラブルを先回りしたり、コントロールしたりできるようになるでしょう。


以上のように、タテ社会の人間関係 単一社会の理論(講談社現代新書) で説かれる日本社会の力学は現代に応用可能です。

人生のできるだけ早い地点で読んだ方がうまく立ち回れると思います。