近年、資源問題を背景に、自然エネルギーに注目が集まっています。
それに伴って、送電網の材料である銀価格の高騰を予測する声がネットに散見されます。
たしかに、太陽光発電の需要が高まれば、それだけ使用される銀の量も増えるでしょう。
銀は、金属の中で番目に送電効率の高い資源です。
実際、代表的な自然エネルギーである太陽光の発電ケーブルの配線には、送電効率の高い銀が使用されています。
太陽光発電の規模が大きくなるという事実は、一見すると、銀の価格上昇を連動させるという見方を導きがちです。
しかし、私はこの予測に対しNoと反論します。
なぜなら、送電ケーブルの銀を別の貴金属に代替する研究が進められているからです。
太陽光発電は、自然エネルギー投資の48%を占めており、32%の風力発電とともに全体の8割を構成します。(参考 : isep https://www.isep.or.jp/archives/library/10685)
1. 自然エネルギーの需要の延びはどの程度か?
自然エネルギー需要の高まりは、過剰な経済発展の後遺症に対する反省のため
近年の自然エネルギー活用のトレンドは、20世紀まで行き遅れた社会主義国だった中国、インド、ロシアなどの急激な経済発展がもたらした環境汚染への見直しによるトレンドです。
新興国からの膨大な工場の排ガス、エネルギー使用量が増加した結果、地球の温室効果ガスの濃度が上昇しました。
こうした温室効果ガスの増大に歯止めをかけるべく、エネルギー政策の見直しが実施されているというわけです。
地球温暖化現象は、人間の生活から生じる二酸化炭素(温室効果ガス)が、大気圏に集積してオゾン膜を作り、発散されて消えるはずの熱が大気圏内に残り、気温上昇が発生する現象のことを指します。
この地球温暖化仮説に対し、一時期「捏造」とする論調が流行りました。
しかし、近年アメリカへは、ハリケーンがたて続けに上陸しており、気温50度を超える州も多発しています。
日本や東南アジアでも豪雨や台風、気候異常などが頻発し、多くの人々が犠牲になりました。
頻発する気象異常が、地球温暖化仮説を裏付けているというわけです。
さらに、中国の背後には、同じく人口13億人のインド、そしてアフリカ、南米が控えています。
現状維持を決め込めば、地球環境に取り返しのつかないダメージを与え、深刻なしっぺ返しを食らうことは間違いありません。
そこで、見直されたのがエネルギーです。
化石燃料を燃料する方法では、温室効果ガスの発生が避けられず、自然へ大きな負担がかかってしまいます。
そこで、太陽光、水力、風力といった自然界のエネルギーを電力に変換して活用しようという軌道修正が図られているのです。
地球温暖化抑制への各国の対応
各国政府は、温室効果ガスの削減に積極的です。
これまでEUは、2020年までに加盟国の最終エネルギー消費量の20%を自然エネルギー化する目標を掲げてきました。
しかし、ドイツやスペイン、イタリアなどでは、電力消費める自然エネルギーの比率が30%を超えています。
EU平均で見ても、2016年の時点で既に17%と、達成目標の20%に差し掛かる規模に達しています。
そこで、2018年に発表された新しいEU目標では、2030年までの目標値が32%に上方修正されています。
さらに、自動車にも白羽の矢が立ちました。
現行の自動車のガソリンエンジンは、ガソリンを燃焼するので、膨大な温室効果ガスが発生してしまいます。
そこで、世界はガソリン車を電気自動車に置き換える方向に舵を切りました。
この電気自動車は、電気によるモーターの回転で走行するため、ガソリン車のような排気ガスを伴いません。
さらに、モーターの回転がさらにコイルを回するので自家発電が可能です。
この環境に優しい作りが評価され、各国は導入にしのぎを削っています。
フランス
2040年までにガソリン車、ディーゼル車の販売を禁止
イギリス
2040年までにガソリン車、ディーゼル車の販売を禁止
中国
2018年に企業への環境保護税を導入。2040年までにガソリン車、ディーゼル車の製造・販売を禁止
インド
2030年までに新車販売の100%を電気自動車に限定
スウェーデン大手のボルボ
2019年以降に生産する自動車の100%を電気自動車へ
ボルボの全車種の電気自動車化は、2019年の予定です。
来るべき電気自動車時代に向けて、メーカーの熾烈なシェア競争が始まりつつあります。
電気自動車を動かす電気はどうするの?
電気自動車の電力を得るために化石燃料を燃やしたのでは、ガソリン車と結果は同じです。
そこで、注目されているのが、自然エネルギーの活用です。
再生可能エネルギーとも呼ばれる自然エネルギーは、主に5種類が知られています。
太陽光発電
風力発電
水力発電
バイオマス発電
地熱発電
このうち、太陽光発電を除く4種類の発電は、大衆に開かれたものではありません。
なぜなら、一定の土地と設備がなければ、実施することができないからです。
一方、太陽光発電のみは、個人でも実施可能です。
誰でも、屋根のてっぺんにソーラーパネルが装着された一軒家を見たことがあるはずです。
国からの補助金も出ており、取り付け価格は100万円-250万円ほど。
オール電化の普及に合わせて自宅の屋根に太陽光パネルを設置する家庭が増えています。
さらに、太陽光技術の発達によるコスト低下が可能が実現し、世界的に普及が加速しつつあります。
2017年の世界の太陽光発電の年間導入量は、前年比+30%。
同年末には導入量が400GWに達し、原発の392GWを凌ぎました。
2. 資源価格に与える影響は?
太陽光発電の効率は、15〜20%とそれほど高くありません。
(水力発電 : 約80%、風力発電 : 20%~45%)
しかし、家庭の屋根を使って、個人でも実装できる点において実用的です。
この辺りで本題に戻りましょう。
つまり、太陽光発電が流行るということは、太陽電池に使われる資源の需要が伸びるということです。
太陽電池の発電は、水力発電や風力発電のように運動エネルギーを電気に変換するタイプの発電機ではありません。
直接、太陽光を電気に変換して利用することができる構造です。
そのため、太陽電池で発生した電気をいかに効率よく送電するかが充電効率を左右します。
せっかく太陽電池で電気を作っても、送電の内部抵抗が大きいと、利用できる電力に制限が生じてしまいます。
そこで鍵になるのが、電極の素材です。
現在、この素材として活躍している金属が銀です。
理由は、金属の中で最も電気抵抗が小さく、高い電気伝導率を発揮する金属だからです。
太陽電池の最小単位である「セル」の材料コストの6割、製造工程全体の約2割をこの銀が占める
とされ、「太陽光発電の流行で銀価格が高騰する」という推測の根拠となっています。
3. 太陽電池に使用される銀を「銅」で置き換える動きが進行中
太陽光発電の普及率向上に、必ずしも銀価格の騰貴が伴うとは限りません。
むしろ逆に、銀価格の下落に向かう兆候すら現れています。
なぜなら、太陽電池の配線の素材を銀から銅に置き換える研究が実施されつつあるからです。
日本の東北大学工学部発のベンチャー(テリアル・コンセプト)は、世界で初めて銅ペーストを用いた太陽電池の実用化に成功しました。
(参考 : https://www.nikkei.com/article/DGXLZO12585580W7A200C1L01000/)
銀と銅の金属的特性
銀と銅は、金属の中で1,2位を争う電気伝導率の高い金属です。
さらに貴金属に該当する銀と違って、銅はベースメタルと呼ばれる豊富な金属です。
銅採掘量不明+埋蔵量9億4000万トン=9億4000万トン〜
つまり、銅は銀に対して、最低でも614倍が地球上に存在している計算になります。
このボリュームの違いを反映して、価格もおよそ100分の1の開きが確認できます。
銅1kgあたり690円
銀1kgあたり57,300円
(参考 : https://www.neo-line.jp/market/ 2019.07.21 12時36分)
銅ペーストへの移行は現実的
このまま銅シフトが実現すれば、太陽電池の製造コストの100分の1の縮小が達成されることになります。
つまり、これまで製造コストの約2割を占めていたコストのほぼ全体が削減できる見込みです。
また、銀特有の性質に起因するボトルネックも解消され、発電効率の向上も見込まれます。
実際に、銅ペーストを用いた太陽電池の実用化も進んでおり、日本のカネカ(発電効率25.1%)や東芝(発電効率23.8%)などが、すでに銅ペーストを使った太陽電池の開発に成功しています。
一般的な太陽電池の発電効率は15〜20%なので(理論限界29%)、銅ペーストを用いた太陽電池は、コスト面のみならずパフォーマンス的にも改良されたことになります。
これが実用化されるまでには、追実験などのプロセスが必要なので、いましばらく時間がかかるでしょう。
しかしながら、安価な銅を材料として使えるようになれば、太陽電池の製造コストを大きく抑えることが可能になります。
つまり、銀・騰貴説の根拠であった「太陽光発電の製造コストの2割が銀」という条件は、もはや過去の光景となりつつあります。
今の流れだと、銀は、太陽光発電の普及とともに高騰するどころか、従来の需要を失って逆に価格を落としかねません。