1. 電気自動車化への対応は、国家の資源状況が決める
電気自動車の終局的な目標は、ガソリン車に置き換わることです。
この事態は、既存のガソリン車メーカーにとっては脅威ですが、競争に遅れをとっている国々にとっては大きなチャンスです。
中国やインド、ユーロ圏の国々が電気自動車の普及に積極的なのは、2つの理由が考えられます。
自然エネルギー産業に欠かせない資源を持つこと
中国、インド、ユーロ圏の国々は、産油国ではありません。
これらの国々は、原油の国内需要を自国だけで賄えないため、外国からの輸入によって補っています。
つまり、ガソリン車が主流であるうちは、動力である原油を輸入し続けなければなりません。
しかし、自然エネルギーを利用できるようになれば、輸入の負担を減らすことができます。
もう1つの理由が、自然エネルギーに関わる産業資源を持つことです。
現在、最も積極的に電気自動車の導入を進めている国が中国です。
"Global EV Outlook 2019"によると、世界全体の電気自動車に占める中国車の割合は約45%。
(参考 : https://www.iea.org/gevo2019/)
中国が電気自動車の導入に積極的なのは、世界最大の自動車市場を持つことや、国内の環境汚染の解決のためといった理由が考えられます。
しかし、それだけではありません。
この問題は、中国が電気自動車の製造に不可欠なある原料の産出国であることと切り離せません。
それは、電気自動車のバッテリーに使われる「リチウムイオン電池」に他なりません。
このリチウムイオン電池は、次の理由から、スマートフォンやラップトップのバッテリーとして定着している電池です。
エネルギー密度が高く、高出力
今後、電気自動車が普及した場合、リチウムイオン電池の需要が増加します。
リチウムの産出国である、南米のチリ、中国やアルゼンチンといった国々が経済的恩恵を受けると予測されています。
一方、アメリカのトランプ大統領は自然エネルギーの活用に関して、「地球温暖化などでっちあげ」という発言を残しています。
この発言からも、アメリカは電気自動車の導入を進めているとはいえ、(アメリカ国内の電気自動車台数は世界の約22%)上記の資源国と比べると、やや渋々感が否めません。
原油輸出国のアメリカにとって、ガソリン車の消滅は、エネルギー収入を途絶えさせる脅威です。
すでに成熟したガソリン車メーカーへの打撃も避けられません。
自動車のEV化、自然エネルギーの利用といったトレンドが、国益に必ずしもプラスでないのが、アメリカの立場です。
2. リチウムイオン電池に日本から強力なライバルが出現
電気自動車普及の大きなボトルネックは、充電時間の長さです。
電気自動車の充電に要する時間は膨大です。
例えば、新型の日産リーフの場合、80%充電に要する時間は高速充電で40分。
多忙な現代社会で、車の充電のためにわざわざ40分も時間を削られるのは、全く実用的でありません。
しかし2017年の7月、日本のトヨタから業界のブレイクスルーを起こしかねない研究が発表されました。
それは、現行のリチウムイオン電池の代替を狙う、新型バッテリーの開発計画です。
この「全個体電池」の画期的な点は、電解質に個体を用いる点です。
電気自動車の抱える諸問題は、液体の電解質を用いるバッテリーのリチウムイオン電池に由来しました。
この改良により現行の様々な問題の解消が見込まれます。
電解質の液体が極端な低温・高温に晒されると、バッテリーの寿命が縮む
この問題は、電解質が液体であることによる限界点です。
そこで、電解質を個体に切り替えることで、次のようなブレイクスルーを見込めるようになります。
2. 温度による制約がないバッテリー寿命が長持ち
大量の電流を流せるようになる=充電時間の短縮
個体電解質が実現すれば、電気自動車のボトルネックである充電時間の短縮を大きく前進させるでしょう。
揮発性で熱に弱い液体の電解質へは、大量の電流を流すことはできません。
しかし、個体の電解質なら、いくら電流を流しても電解質が劣化してしまう恐れはありません。
通電する量を問わなくなれば、高入力(高速充電)、高出力(高エネルギー出力)が可能になります。
トヨタ自動車によると、「全個体電池」によってリチウムイオン電池の3倍の出力が期待できると報告しています。
この電池をEVに搭載した場合、フル充電までにかかる時間を3分に短縮する可能性が開けます。
バッテリーの寿命が縮まない
現行のリチウムイオン電池が劣化してしまうのは、電極の劣化に原因があります。これは、電解液と負極の黒鉛(炭素)の化学反応です。
電解液に含まれる、EC(エチレンカーボネート)という物質と、負極の炭素系成分が化学反応を起こすことで、負極表面にSEI(固体電解質相)と呼ばれる薄い皮膜を形成してしまうのです。
さらに、アレニウスの式(化学反応の速度を予測する公式)に従うと、化学反応は高温状態で促進されます。
したがって、バッテリーは高温状態に晒されると劣化が早まるのです。
しかしながら、電極の改良が進み、シリコンを用いた新しい電極の開発も進められています。
負極の素材に非炭素系の素材を用いることで、エチレンカーボネートが化学反応しなくなり、SEIを作らずに済みます。
これにより、約50%のバッテリー容量の増大が見込めます。
実際、試作電池は、従来のリチウムイオン電池よりも40%高いバッテリー容量を示しています。
こうした改良は、確実に電池の性能を向上させていくはずです。
バッテリーの劣化のしやすさは、充電時間の長さに加え、ユーザーの不満の種になりがちな問題でした。
しかし、次世代電池が実現すれば、ユーザーはバッテリー劣化を気にすることなく、快適に電気自動車を利用できるようになります。
ユーザーも安心して購入できるようになり、普及を後押しするでしょう。
3. 全固体電池の実装は2022年以降の未来
とはいえ、全固体電池はいまだ研究段階です。
実用化は早くとも2022年頃と試算され、電気自動車への搭載となると2030年頃となる見込みです。
市場に出回るまで長い時間を要します。
現時点では、あくまで計画段階であり、成功が確証されているわけでもありません。
4. ナトリウムやマグネシウムを使った電極の開発
また日本のメーカーは、電解質の改良にも着手しており、電解質の成分をリチウムからナトリウムに置き換えることを目指しています。
ナトリウムは海水からも採取できる資源であり、これが実現すれば、膨大なリチウム埋蔵量を背景に市場拡大を狙う中国の野心にも抵抗できるでしょう。
トヨタは、ガソリン車の廃止により衰退企業とされますが、時代の推移を、ただ黙って見ているだけではないようです。
業界再編を巡る動向に注視していきたいものです。